黒田記念館 > 研究資料 > 白馬会関係新聞記事 > 第13回白馬会展

白馬会関係新聞記事 第13回白馬会展

戻る
白馬会(はくばくわい)を観(み)る(二)
目次 |  戻る     進む 
| 魚田生 | 時事新報 | 1910(明治43)/05/19 | 7頁 | 展評 |
湯浅一郎氏「アルカンタラ橋(きよう)」「ヘネラリフエ宮殿(きうでん)」「ボサダデラサングレイ旅宿(りよしゆく)」「アルハンブラ宮殿(きうでん)」十有余点(ゆうよてん)の水彩画(すいさいぐわ)の内(うち)で自分(じぶん)は此(この)四点(てん)を選(えら)んだ、氏(し)の水彩(すいさい)の何(いづ)れもを通(つう)じて彼熱帯地方(かのねつたいちほう)にでもありさうな重苦(おもくる)しい熱(あつ)い感(かん)じの一種(しゆ)の色(いろ)が見(み)える然(しか)も其調子(そのちようし)が頗(すこぶ)る一様(よう)である爲(ため)に余(あま)り快感(くわいかん)を与(あた)へないのだが前記(ぜんき)の作品(さくひん)には夫(そ)れがない就中(なかんずく)「アルハンブラ宮(きう)」「サングレイ旅宿(りよしゆく)」などは新(あたら)しい行(ゆ)き方(かた)で非常(ひじよう)に好(よ)い処(ところ)がある油絵(あぶらえ)では「村娘(むらむすめ)」と「休息(きうそく)」とが最(もつと)も傑出(けつしゆつ)して居(い)る、其強健(そのきようけん)な筆力(ひつりよく)と快濶(くわいくわつ)な色調(しきちよう)とは慥(たし)かに場中(じようちう)の異彩(いさい)だと思(おも)ふ@矢崎千代治氏「スタンドライト」少女(しようじよ)の肖像(しようぞう)も無難(ぶなん)の方(ほう)だが此静物(このせいぶつ)の方(かた)が寧(むし)ろ佳作(かさく)だ@中沢弘光氏「馬醉木(あせび)の花(はな)」「伊豆(いづ)湯(ゆ)ケ嶋(しま)」「柿(かき)」何(いづ)れも着実(ちやくじつ)な研究(けんきゆう)になつたもので十余点(よてん)の出品中(しゆつぴんちう)で特(とく)に優(すぐ)れた作品(さくひん)だ、只(たゞ)どれにも光(ひかり)の説明(せつめい)がないドンヨリした曇(くも)つた弱(よわ)い調子(ちようし)で如何(いか)にしても日中(につちう)の光景(こうけい)とは受取(うけと)れない、此他(このた)に新緑(しんりよく)と題(だい)したものがある小(ちい)さいのだが地面(ぢめん)の変化(へんくわ)など中々巧(なかなかたく)みに出来(でき)て居(い)る併(しか)し是(これ)も光(ひかり)の調子(ちようし)が弱(よわ)いので新緑(しんりよく)の感(かん)じが充分(しうぶん)でないのが疵(きず)だ。兎(と)に角是等氏(かくこれらし)の作品(さくひん)には何(いづ)れも真面目(まじめ)な研究(けんきう)の跡(あと)が見(み)えて彼近頃(かのちかごろ)一部(ぶ)の間(あいだ)に流行(りうこう)して居(い)る徒(いたづ)らに新(あたら)しがつたもの等(など)よりは遥(はる)かに飽(あ)かぬ妙味(みようみ)がある@小林鐘吉氏「初夏(しよか)の堤(つゝみ)」「曇(くもり)の海(うみ)」前者(ぜんしや)の方(ほう)が比較的無難(ひかくてきぶなん)な出来(でき)だ「曇(くもり)の海(うみ)」は或感(あるかん)じは現(あら)はれて居(い)るが色彩(しきさい)に稍不快(やゝふくわい)な処(ところ)がある@跡見泰氏「泊船(とまりぶね)」静(しづ)かな入江(いりえ)に二三の漁船(ぎよせん)が碇泊(ていはく)して居(い)る光景(こうけい)で自然(しぜん)の感(かん)じが如何(いか)にも能(よ)く現(あら)はれて居(い)る、此絵(このえ)の前(まえ)に立(た)つて居(い)ると何処(どこ)となし静(しづ)かな風(かぜ)が追分節(おいわけぶし)でも送(おく)つて来(き)そうな心持(こゝろもち)がする、此他(このほか)に「入江(いりえ)」「朝凪(あさなぎ)」「夕(ゆうべ)の港(みなと)」「犬吠岬(いぬぼえみさき)」等(とう)があつて何(いづ)れも面白(おもしろ)い出来(でき)だ「暮靄(ぼあい)」は最(もつと)も苦心(くしん)の作品(さくひん)と見受(みう)けたが少(すこ)し描(か)き過(す)ぎた傾(かたむき)がある色(いろ)が全体(ぜんたい)に湿濁(しつだく)して居(い)るのが不快(ふくわい)だ

  目次 |  戻る     進む 
©独立行政法人国立文化財機構 東京文化財研究所