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白馬会関係新聞記事 第5回白馬会展

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白馬会瞥見(はくばくわいべつけん)
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| 香夢生 | 二六新報 | 1900/10/29 | 1頁 | 展評 |
△岡田三郎助氏の画 数枚(すまい)あれど取(と)り立(た)てて言(い)ふべき程(ほど)のものは見當(みあた)らぬやうだ、しかし、流石(さすが)に欧洲(おうしう)で研究(けんきう)し居(ゐ)るセイか、彩色(さいしき)に垢抜(あかぬ)けた所(ところ)があるやうだ、就中(なかんづく)「セイヌの河上」と題(だい)せる二枚(まい)が上出来(じやうでき)である、共(とも)に大(おほき)さも風景(ふうけい)も似(に)よツた者(もの)だが、空(そら)に雲(くも)のない方(はう)が尤(もつと)も面白(おもしろ)い、色(いろ)は総(そう)じて緑(みどり)の調子(てうし)で出来(でき)て居(ゐ)る故(ゆゑ)、下手(へた)に画(か)くとドウしても寒(さむ)く堅(かた)くるしい画(ゑ)に成(な)り易(やす)い、其(それ)を斯(か)く巧(たくみ)に画(か)き上(あ)げた手際(てぎは)は、能(よ)く緑色(りよくしよく)を研究(けんきう)せられたものと見(み)える、パステルの画(ゑ)は四枚(まい)あるが、「ドウエーの月夜」が尤(もつと)も趣味(しゆみ)がある、又(また)「ホルベン」の画(か)いた「カンタバリー僧正の肖像」を模写(もしや)したものがあるが、これは原画(げんぐわ)の写真(しやしん)が日本(にほん)にも来(き)て居(ゐ)るからドウ言(い)ふ形(かたち)かは知(し)ツて居(ゐ)る人(ひと)もあらうが、着色(ちやくしよく)の工合(ぐあひ)はこの模写(もしや)にて始(はじ)めて知(し)ることが出来(でき)るので、吾邦(わがくに)の美術家(びじゆつか)にとりては誠(まこと)に得難(えがた)き参考品(さんかうひん)の一つである、必竟(ひつきやう)するに我邦(わがくに)の絵画(くわいぐわ)の発達(はつたつ)せぬ原因(げんいん)はいろいろあらうが、一つは西洋名家(せいやうめいか)の画(ゑ)を見(み)ることが出来(でき)ぬからであらう、斯(かく)の如(ごと)きものが年々出品(ねんねんしゆつぴん)せらるるやうになつたらば美術家(びじゆつか)を大(おほい)に益(えき)するであらう△和田英作氏の油画 総(すべ)て色(いろ)は奇麗(きれい)であるが、マダ留学(りうがく)の日浅(ひあさ)いセイか日本在中(にほんざいちう)のとサシタル変(かは)りがない、殊(こと)に「独逸グルーネワルドの夕陽」と題(だい)せる画(ゑ)の前景(ぜんけい)の草木(さうもく)の如(ごと)きは、氏(し)の大作(たいさく)「矢口の渡頭」のと大差(たいさ)がないやうである、又(また)肖像画が二枚(まい)あるがこれも亦色(またいろ)は誠(まこと)に奇麗(きれい)である、海野某(うんのばう)の肖像(せうざう)の方(はう)がヨク肖(に)て居(ゐ)て、肖像(せうざう)としては申分(まをしぶん)がなからうが、ドウも蝋細工(らうざいく)の人形(にんぎやう)の如(ごと)き、一種(しゆ)の光(ひか)りがあるやうに見(み)えるのは僻目(ひがめ)か△コラン氏の墨画 三枚(まい)あるがこれは美術学校(びじゆつがくかう)の参考品(さんかうひん)として黒田氏(くろだし)より送(おく)られたものであるさうだ、既(すで)に欧洲(おうしう)にて定評(ていひやう)ある大家(たいか)の作(さく)であるから、謹(つゝし)むで駄評(だひやう)を加(くは)へぬことゝせり

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