| △中村勝治郎氏の「樹下の小児」 腕白盛（わんぱくざかり）の男児（こども）が菓実（くだもの）を採（と）らむとして枝（えだ）を撓（たわ）めて居（ゐ）る所（ところ）である、衣服（きもの）は能（よ）く出来（でき）て居（ゐ）るが、木（こ）の間（ま）を通（とほ）してモレ来（き）た光線（くわうせん）がもの足（た）らぬやうに思（おも）はれる、又（ま）た下絵（したゑ）が不確（ふたしか）であツた為（た）め手（て）が大（おほ）き過（す）ぎてシマリがないやうだ△藤島武二氏の「浴後」 湯上（ゆあが）りの美人（びじん）が斜（なゝめ）に床几（しやうぎ）に腰（こし）をかけて、膝（ひざ）の上（うへ）にサモ涼（すず）しさうな浴衣（ゆかた）を上（の）せて、無心（むしん）に手（て）の爪（つめ）をキツて居（ゐ）る所（ところ）でナカナカの出来（でき）だ、人（ひと）はサマザマで、モデル臭（くさ）いとか、腰（こし）から下（した）がマヅイとか、足（あし）が太過（ふとす）ぎるとかいふが、これは盲評（めくらひやう）たるを免（まぬが）れない、光線（くわうせん）の工合（ぐあひ）や、皮膚（ひふ）の色合（いろあひ）や、線（せん）の工合（ぐあひ）などは申分（まをしぶん）がない、殊（こと）に肩（かた）の工合（ぐあひ）と足（あし）の工合（ぐあひ）とはヨク出来（でき）て居（ゐ）る、欠点（けつてん）と思（おも）はるゝ部分（ぶぶん）は肘（ひじ）が平（ひらた）く見（み）えるのと、乳（ちち）が少々可笑（せうせうをかし）く見（み）えるのとの二点（てん）である（本日（ほんじつ）の画報（ぐわはう）を見（み）よ）△黒田清輝氏の作 本年（ほんねん）は洋行中（やうかうちう）のことゝて大作（たいさく）とてはないが、何（いづ）れも軽妙（けいめう）を極（きは）めて、数多（あまた）の列品中独（れつぴんちうひと）り異彩（いさい）を放（はな）ツて居（ゐ）る、殊（こと）に「海草採集」の画（ゑ）が面白（おもしろ）い、或人（あるひと）の言（い）ツた通（とほ）り、かゝる画風（ぐわふう）であると油絵（あぶらゑ）の嫌（きら）ひな人（ひと）にも少（すこ）しは解（わか）るだらう、この画（ゑ）に対（たい）すると何（な）んとなくミレーの小品（せうひん）に対（たい）する思（おも）ひがする、△小林萬吾氏の「門付」 思（おも）ひつきのヨイ題目（だいもく）だが、個々（こゝ）の関係（くわんけい）が薄（うす）いためか、ドウも活気（くわつき）がなく、又必要（またひつえう）のない所（ところ）に力（ちから）を入（い）れた気味（きみ）がある、其（それ）から空（そら）と地面（ぢめん）とに申分（まをしぶん）がある、地面（ぢめん）が少（すこ）し粘土然（ねばつちぜん）と見（み）える、シカシ、衣服（きもの）の皺（しわ）は非常（ひじやう）にヨク出来（でき）て居（ゐ）る、後景（こうけい）の小児（せうに）は寧（むし）ろなくもがな（明日（みやうにち）の画報（ぐわほう）に現（あら）はるべし）△長原孝太郎氏の「子守」 キラキラと晴（は）れ渡（わた）ツて居（ゐ）る夏（なつ）の日中（ひなか）に、少女（せうぢよ）が児供（こども）を背負（おぶ）ツて、右（みぎ）の手（て）に日傘（ひがさ）をさし左（ひだり）の手（て）に蜻蛉（とんぼ）を飛（と）ばせつゝ草原（くさはら）を過（す）ぎるといふ清新（せいしん）な趣向（しゆかう）である、児供（こども）の何（なに）も知（し）らずに頭（あたま）を後（うしろ）の方（はう）に垂（た）れて眼（ねむ）つて居（ゐ）るサマや、少女（せうぢよ）が児供（こども）に日（ひ）のあたるのも知（し）らずに夢中（むちう）になりて途（みち）を急（いそ）ぐさまが真（しん）に迫（せま）ツて居（ゐ）る、ソシテ衣服（きもの）と草（くさ）と森（もり）との色（いろ）の配合（はいがふ）が面白（おもしろ）い、草（くさ）は前景（ぜんけい）の方（はう）が能（よ）く画（か）いてあるが、これに比較（ひかく）して中景（ちうけい）の草（くさ）は無造作（むざうさ）である、細（こまか）く言（い）へば、日傘（ひがさ）と森（もり）との隔（へだた）りが全（ま）るで見（み）えない、少女（せいぢよ）の右（みぎ）の袖（そで）が堅（かた）く見（み）えて皺（しわ）の出方（だしかた）が不手際（ふてぎは）である少女（せいぢよ）と児供（こども）との衣服（きもの）が同（おな）じやうな色（いろ）である、為（ため）に見栄（みば）えがない、これ丈（だけ）の画（か）きコナシをして何（な）ぜココに気（き）がつかなかツたか、又児供（またこども）の手（て）と足（あし）とが人形（にんぎやう）の手足（てあし）のやうに見（み）え、少女（せいぢよ）の手（て）が不十分（ふじうぶん）であるやうに思（おも）はれ、ソレカラ又落（またお）ちた影（かげ）が重（おも）みのあるやうに見（み）える、＠本日限（ほんじつかぎ）りで完結（くわんけつ）の考（かんがへ）であツたが展覧会（てんらんくわい）の方（はう）も廿七日迄日延（までひのべ）となツたため尚（な）ほ一両日続（りやうじつつゞ）くることゝした |
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