今日の我に於ける洋画界（ようぐわかい）は初期（しよき）に属す、新派と云ひ旧派と呼（よ）ばるゝ、批評（ひへう）は批評、我れは我れのみ、今の時は大に修（おさ）めて大に画（ゑが）き、而して大に斯界（しかい）の発達（はつたつ）を謀り勢力（せいりよく）を高むべきなり、決して外に意を介（かい）して内を忘（わす）るゝが如き余暇（よか）ある時ならずとは何れの辺に起（おこ）りし慨言（がいげん）にや、＠頃日世（よ）の旧派と目（もく）する小山正太郎、山本芳翠、新派と称する黒田清輝、久米桂一郎諸氏の間に起りぬ、終（つひ）に我れ我れは同感（どうかん）の士と精神的（せいしんてき）の結合を為して此目的（このもくてき）を達すべしと茲（ここ）に新団体は生れぬ、＠主義は自由平等（じゆうべうどう）なり、新旧（しんきう）もなければ南北もなし大に学（まな）びて大に働（はたら）かん人は即ち一味徒党（いちみとゝう）の士たるべし、形（かた）にのみやかましきは我々の執（と）らざる所なれば、此会には規則（きそく）もなし役員（やくいん）もなし、符号代（ふがうがは）りに白馬会（はくばくわい）と称せんのみと、＠白馬（はくば）とは如何（いか）なる意味にや、試（こゝろ）みに「しろうま」と訓読（くんどく）せんか、葡萄（ふどう）の美酒に耽（ふけ）りて独（ひと）り楽まんは我れの意にあらず、我れに階級（かいきう）なし門戸（もんこ）なし流派（りうは）なし、しろうまを傾（かたむ）けて社会平等（しやくわいべうとう）を謳（うた）はんかなどの意味（いみ）にもや、我れは知らず、＠今日に此美挙（このびきよ）なくてやは、此新結合（このしんけつがう）の結果展覧会などいづれ開（ひら）かるゝなるべし、鴎外のぬしも大に賛成（さんせい）の意を表（へう）せしとか（芳）
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