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第36回オープンレクチャー
日本における外来美術の受容
 

2002年10月18日(金)・ 10月19日(土)
いずれも午後1時30分~午後4時30分
東京文化財研究所・地下セミナー室

美術部では、研究成果を広く公表するために公開学術講座「美術部オープンレクチャー」を毎年秋に開催していますが、本年で36回目を迎えました。昨年度は土曜日の午後を選んで3週連続で開講しましたが、今年度は金曜日と土曜日の午後、2日連続で開講し、聴講者の便宜を図るよう努めました。
好評だった前回に引きつづき、美術部の研究プロジェクト「日本における外来美術の受容に関する調査研究」をテーマに掲げましたが、今年度はとくに、東アジア圏の仏教美術の交流史と、明治から昭和の日本とフランスの美術交流のふたつのサブ・テーマを設けました。

2002年10月18日(金)
午後1時30分~午後4時30分 於 東京文化財研究所・地下セミナー室
異文化の模倣・増幅・拒絶 -日中間における涅槃表現の流通と変容-
井手 誠之輔(情報調整室長)
仏教美術史の分野では、中国美術の影響や伝播という観点から、日本における外来美術の問題が語られてきました。しかし、伝播論・影響論のもとでは、渡し手側の中国や受け手側の日本において、実際に造形をとりまいていたはずの個別具体的な事象は、看過されてしまいがちです。この発表では、中国を異文化とみなし、彼我の違いを明らかにしたうえで、日本に伝来する南宋仏画の涅槃表現が、どのように理解されたのかという問題を、異文化の模倣・増幅・拒絶という3つの観点から考えました。


経を写す 絵を写す
須藤 弘敏(弘前大学人文学部教授)
仏教発祥の地インドから最も遠い日本では、多くの僧侶が教えを求めて隋・唐・宋などに渡り、数万巻の経典をもたらしました。それらの表紙には装飾文様が、見返しには経意をあらわす絵画(経絵)が描かれ、当時の人々は、あたかも連載小説の挿絵を見るような、美しく整った異国の画面に魅せられました。奈良時代から鎌倉時代には、これらをもとに写経が作られましたが、その小さな画面には大陸仏教への憧れとともに、教団やパトロンの思惑などさまざまな意図もまた反映されており、仏教美術の中でも興味のつきない作品になっています。

 
2002年10月19日(土)
午後1時30分~午後4時30分 於 東京文化財研究所・地下セミナー室
黒田清輝 -日本の裸婦をどう描くか-
山梨 絵美子 (美術部広領域研究室長)
1884年にフランスに留学し、サロンの画家ラファエル・コランに師事して1893年に帰国した黒田清輝(1866~1924)は、19世紀末フランスの絵画を手本として日本の油彩画をつくろうとしました。その中で、最も力を注いだことのひとつが、西洋の理想的人体を手本とし、解剖学的にも矛盾のない日本人の裸婦像を描くことでした。黒田はそれをどのように作り出していったのか、なぜそれを重視したのかを、代表作「智・感・情」などの黒田作品にそって考えました。


日本・藤田嗣治・フランス
林 洋子 (京都造形芸術大学芸術学部助教授)
藤田嗣治(1886~1968)は1920年代のパリで、日本画の要素を油彩表現に取り入れた独特の画風で成功しました。パリでは、名声とともに「日本」を象徴する存在としての制作と振る舞いが求められた藤田であるが、第二次大戦中に東京へ戻ると、逆に「フランス」的要素が求められた。このふたつの時期の作品には質的な違いが見られます。「日本人」であることをベースに制作した画家でもあった藤田は、晩年をパリに暮らし、フランス国籍を取得しています。こうした日仏間での心の「ゆれ」は、藤田の芸術を考える上で見逃すことができません。


この講座は、上野の山文化ゾーン連絡協議会が主催して毎年秋に開かれる「上野の山文化ゾーンフェスティバル」の講演会シリーズのプログラムとしても企画されており、今回は昨年を上まわる214名の参加がありました。
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