敦煌文書とアーカイブ

赤尾栄慶
京都国立博物館
主著等: “On changes in paper type and number of lines of text per panel as seen in the Dunhuang manuscripts,” The British Library Studies in Conservation Science 3 Dunhuang Manuscript Forgeries, London: The British Library, 2002.
「書誌学的観点から見た敦煌写本と偽写本をめぐる問題」『佛教藝術』271号(2003年11月)
「古写経―聖なる文字の世界―」『古写経―聖なる文字の世界―』(展覧会図録、京都国立博物館、2004年)
「敦煌写本的書誌学的研究―基於近年的動向」『敦煌学・日本学―石塚晴通教授退職紀念論文集』(上海辞書出版社、2005年)
「京都国立博物館蔵大谷探検隊帯来写本介紹」『転型期的敦煌学』(上海古籍出版社、2007年)

マーク・バーナード
大英図書館
主著等: “Conservation Assessment of Miscellaneous Items from the British Library’s Stein Collection: a Conservator’s Dilemma,” Conservation des manuscripts de Dunhuang et d’Asie centrale. Paris: Bibliotheque nationale de France, 1998.
Richard Salomon, F. Raymond Allchin and Mark Barnard, Ancient Buddhist Scrolls from Gandhara, London: The British Library, 1999.
Mark Barnard and Frances Wood, “A Short History of the Conservation of the Dunhuang Manuscripts in London,” The Silk Road: Trade, Travel, War and Faith, eds. Susan Whitfield with Ursula Sims-Williams, London: The British Library, 2004.
“Conservation of the Gandharan Scrolls Held Within the British Library,” Scientific Analysis, Conservation and Digitization of Central Asian Cultural Properties, eds. Enami Kazuyuki with Okada Yoshihiro, Osaka: Toho Shuppan, 2006.

中野照男
東京文化財研究所
主著等: 『山岳信仰の美術』(日本の美術465号、至文堂、2005年2月)
「キジル石窟の仏伝図」『芸術学フォーラム4―東洋の美術』(勁草書房、2006年)
「尾高鮮之助のみたバーミヤーン」『佛教藝術』289号(2006年11月)
「壁画仏坐像(東京国立博物館保管)を通して見たクムトラ石窟壁画の画題と様式の変容」『交流と伝統の視点から見た仏教美術の研究―インドから日本まで―』(科研費報告書、2008年)
「敦煌文書の真贋をめぐる覚書」『日本美術史の杜 村重寧先生・星山晋也先生古稀記念論文集』(竹林舎、2008年)
 わが国で敦煌文献の真贋が論じられるようになったのが、1950年代になってからであった。国内有数の古写経コレクションである守屋コレクションが京都国立博物館に寄贈されたのは、1954年のことであり、その守屋コレクション中の敦煌写経に疑問をもったのが、藤枝晃である。それらの図版と解題を収めた『守屋孝蔵氏蒐集 古経図録』が出版されたのが1964年であったが、その解題の編集作業に関わって以来、藤枝晃はこのコレクションの偽写本問題を熱心に追求した。この問題を一般が認知したのは、1986年1月に朝日新聞が、藤枝論文に基づき、京都国立博物館の敦煌写経に偽物があると報道した後であった。
 しかし、わが国では敦煌文献の真贋が積極的に議論されているとは言い難い。この問題に積極的な発言をしたのは藤枝晃と池田温である。大雑把にまとめると、藤枝晃は、真物はオリジナルでなければならないという立場に立ち、池田温は、贋物を頭から否定するのではなく、オリジナルの正確な模写であるならば、贋物といえども価値を認めたいという立場に立つ。二人の立場は、オリジナルに関わる重要な問題を提起していると言えよう。
 敦煌文献の真贋を明らかにする研究手法としては、藤枝晃によるコディコロジー(写本学)研究、ジャン・ピエール・ドレージュによるモルフォロジー(形態学)研究、両者の研究を取り入れた赤尾栄慶による書誌学的研究がある。それらは、敦煌文献をまずモノとしてとらえ、モノの部分に関わるデータを詳細に収集し、それらの諸データを類型的に比較、分析する研究態度である。基本的に目視によるデータ収集であるために、測定する研究者によって、規準が異なり、データにばらつきがでる場合があり、またデータを分析する際にも、研究者の経験や能力が影響を及ぼすことも多い。このような弊害を少なくするために、最近は、科学的な研究手法、分析手法によって得られたデータも重要視されている。
 海外では、IDP(The International Dunhuang Project)が、この問題を正面から取り上げて議論した。IDPは、大英図書館の敦煌文献のアーカイブを拠点として、スーザン・ウィットフィールドが主幹をしているプロジェクトであるが、ここが、1997年6月30日から7月2日まで、Forgeries of Dunhuang Manuscripts in the Early Twenthies Century というワークショップを開催した。この折りに、スタイン将来の敦煌文献にも偽物が含まれることが認知され、すでにその折の議論の報告書も刊行されている。
 本討論では、敦煌文献の真贋、保存と修復、科学的調査、研究拠点としてのアーカイブの形成などを観点として、敦煌文献研究の歴史と展望について議論したい。