室町時代狩野派扇面画の“オリジナル”
― 宋画との関連 ―
マシュー・P・マッケルウェイ
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本発表では、室町時代後期の絵画における図様(構図、モティーフ)の転写と展開をたどる。そのために、遺作数が多く、図様も多岐にわたる扇面図(扇絵)をとりあげ、それらの“オリジナル”となった南宋絵画との関係に着目する。ここではとくに狩野派の“扇面流屏風”に焦点を絞り、画題や典拠に関連性を有する数種の扇面画群を分析してみたい。 「州信」印(狩野永徳の使用印)の捺された扇面が含まれることで近年再び注目されるようになった「二十四孝図扇面流屏風」(個人蔵)を例に挙げる。本作例では、人物・山水・花鳥などのさまざまな画題の扇面が、ひとつの屏風に貼り交ぜられている。まず、これら個々の扇面図が本来どのような形式のものとして制作されたのか、その図様はどこから採られたのか、扇の所持者にとってそのことにどのような意味があったのかを考察する。その際、ある扇面図の図様がある南宋絵画を出典としたことがわかるだけでは不十分で、なぜ絵師たちがそのような“オリジナル”にこだわったのかということが問われなければならない。そこから、工房の展開と実制作において、扇面図という画面形式が狩野派の絵師たちにとってどのような機能を果たしたのかを考えてみたい。 また、とくに「二十四孝図扇面流屏風」やそれに類する“扇面流”という媒体における、扇面画の受容と変容について考察する。16世紀後期の視覚文化にかかわるさまざまなコンテクストの中で、ある特定の図様はどのように流布したのであろうか。なぜ特定の図様が他の図様よりも好まれたのであろうか。中世末期の日本における扇面画の美的なありようについて、これらの作例はわれわれになにを教えてくれるのだろうか。本発表では、画面の表面に図様を作っていくという以上に扇面画をより深く理解することを試み、異なった文脈の中を移動するうちに典拠となった“オリジナル”からどんどん離れていく、そのようなモノとして扇面画を捉え直すことを試みたい。 (綿田稔 訳)
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