二点の中国古書蹟における光学調査

何傳馨
國立故宮博物院
主著等: 『懐素自叙帖檢測報告』(國立故宮博物院、2005年)
『孫過庭書譜光學攝影檢測報告』(國立故宮博物院、2008年)
『晋唐法書名蹟』(國立故宮博物院、2008年)

 國立故宮博物院(台北)と東京文化財研究所は、2004年以降、協力して故宮所蔵の書画の名品の光学調査を進めてきた。この研究の目的は、故宮の研究員のもつ文物鑑定の知識と、東京文化財研究所企画情報部員が開発した科学的調査技術を合わせ、非破壊の調査技術により、中国の古書画の材質を観察、画像資料を収集し、将来にわたる鑑定と作品保護のための拠り所を築くことにある。2005年には双方の協力による初の調査報告書『懐素自叙帖検測報告』を出版し、この千古に冠する名蹟に存在する模写・後補・紙質およびツ印などの問題に、明確な解答を出すことができた。その後「大観―北宋書画特展」では、数件の書画名蹟について、作品の材質・筆墨・顔料およびツ印等を科学的に調査し、展覧会場において、その部分画像を様々な媒体に出力して書画の真蹟と対照させることにより、鑑賞者がより深く構成画面の状態を知ることができるよう情報を提供した。また2008年10月には、二冊めの調査報告書『孫過庭書譜光学摂影報告』を出版した。
 孫過庭の「書譜」は、687年、今から1300年余り前に書かれた、国立故宮博物院の国宝級書蹟の名品であり、中国・日本を含め、欧米に及ぶまで、詳細な研究論考が多数ある。諸論考には、孫過庭の構想した全篇の内容から、その書写、あるいは数回にわたり紙の改変や書き直しを経ていることまでが触れられている。このほか、歴代にわたり宮廷や個人の所蔵を経たので、本書蹟には先人の表装や収蔵印の痕跡も残されている。このたびの調査を通して、本書蹟の当初から現在にいたるまでの変化の過程を、さらに明らかに見ることができるであろう。
(峯岸佳葉 訳)