皇帝コレクションから国宝へ―20世紀前半における中国美術と故宮博物院―
石 守謙(シ ショウチェン)
|
||||
本稿は、20世紀前半の政治的、文化的環境の中で美術品に対する考えが変化するというコンテクストの中での初期の故宮博物院に関する研究である。故宮博物院のコレクションは本来皇帝コレクションであり、乾隆帝(在位1736〜95)期にその基礎を置く。コレクションは乾隆帝の個人的な所蔵物であったにもかかわらず、大帝国の要求を満たすべく形づくられ、明白なダイナミズムを表すに至った。これらの美術品は宮廷の中に移され、さまざまな象徴的な機能とともに保有され、最終的には複雑だが特色ある秩序を構築した。しかし、19世紀末、清朝皇帝の力がしだいに弱まり、もはや防衛力も逸してしまったころ、その秩序は崩壊する。最後の王室は深刻化した政治、財政問題を解決する方便としてコレクションを使ったのである。そのため、モノは本来のコンテクストから引き離されることとなった。王室ばかりか、外国軍人、宮廷の宦官、そして堕落した役人までもがコレクションが散逸していく過程に関わっていった。その結果、国内的にもまた国際的にも古美術品市場がにぎわうことになった。 (勝木言一郎訳) |