神代石の収集
内田 好昭(うちだ よしあき)
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遠い過去の製作物が、新たな意味を与えられ後代に再び登場する一つの事例として、「神代石」をとりあげる。神代石とは、近世日本の弄石家たちの用語で、『古事記』、『日本書紀』等に記された神代(神武天皇による建国以前の時代、すなわち神の時代)に製作された石製品の意である。具体的には、独鈷石、石刀、石棒、石冠、青龍刀形石器などの新石器時代の石製品や、車輪石、鍬形石、琴柱形石製品などの前期古墳(3〜5世紀)に副葬される石製の腕飾類や模造品などを指す。製作が巧妙で地中から出土することが全体に共通する特徴である。神代石は江戸時代後期(18世紀後半〜19世期半ば)の日本で興味の対象となり、弄石家たちは採集、恵与、交換、購入などの方法で、これらを収集した。同好者の間では頻繁な知見の交換がなされ、移動に不便な所蔵品を遠方の同好者に示すために模写が作られた。神代石概念は19世紀後半の近代考古学の出現によって姿を消す。ところで、神代石は近世弄石家が与えた表象であり、時間を移動したのは神代石なるカテゴリーではなく、かつてそれぞれ別個の機能を有した石器時代や古墳時代の石製品である。したがって、重要なのは神代石なる概念の誕生であり、その後退である。そこからモノの時間的な移動と新たな価値の付与について考える。 |