ニュウハクシミ
Ctenolepisma calvum
スケール
  • 【加害対象物】
  • 紙資料
  • 【被害の状態】
  • 食害、糞汚染
  • 【加害するステージ】
  • 全ステージ(無変態昆虫)
  • 詳細を表示
  • 【分布】
  • 日本全国、ヨーロッパ、東南アジア、中央アメリカ
  • 【形態的特徴】
  • 体型:細長い
  • 色: 白~乳白色(外骨格が半透明)
  • 特徴:翅がない
  •    触角、3本の尾毛が長い
  • 【生態・加害の特徴】
  •  無変態昆虫で幼虫から成虫までほとんど形態的な変化がない。負の走光性(光を避ける性質)を持つ。孵化後、1年弱で成熟し産卵可能になる。一度に10個ほど、年に2回産卵することが報告されている。これまでの研究で、10℃以下または相対湿度43%以下の環境で死滅することが確認されている。
     ニュウハクシミは単為生殖を行うことが明らかとなっており、これにより繁殖力が高いため、一度個体数が殖えると完全に駆除することが困難である。また、一個体からでも繁殖が可能なため、博物館資料や梱包資材等に付着し、資料の移動にともなって分布域を拡大していると考えられる。
     分布域は、2022年に初めて日本から報告された時には5都道県であったが、2025年9月末時点では19都道県となっており、拡大傾向にある。
     これまでに文化財への直接的な被害は報告されていないが、他のシミ類と同様に紙の表面を摂食するため、屏風や襖、掛け軸などの紙資料を食害する可能性が高い。
  • 【予防と管理上の注意点】
  •  一旦施設に定着してしまうと、防除が極めて困難となるため、早期発見・早期対応がとても重要となる。
     段ボールはニュウハクシミにとって非常に住みやすい空間となっており、段ボールの中で繁殖が起きやすい。そのため、段ボールや巻き段での保管を極力減らし、スチール製やプラスチック製のケースに資料を入れる。やむを得ず、段ボールを使用する際には、床置きはせず、棚などの一段高い場所に置くことを心掛ける。フッ素樹脂テープのような摩擦の少ないテープの使用も有効である。
  • 【対処】
  •  文化財の資料自体に留まることがないため、資料の燻蒸のような小規模な燻蒸はあまり意味がない。全館を処理するような大規模燻蒸を行う事で全館的な駆除は可能。
    (燻蒸剤が少なくなりつつあり、環境や人体への影響を考えると大規模燻蒸は現実的ではない)
     これまでの研究で、蟻用の毒餌(ベイト剤)によって飼育系において個体群が死滅に至ることが確認されており、ニュウハクシミに有効だと考えられる。また、資料には使うことができないが、ピレスロイド系の殺虫剤での防除も有効であり、ニュウハクシミが歩行する壁際への散布で効果がある。
     ニュウハクシミを含めシミ類は、紙質のもの以外にもたんぱく質必要としており、昆虫の死骸やホコリに含まれる人の髪などを摂食するため、除塵清掃も効果的である。
  • 【東文研登録遺伝子】
  • BOLD SYSTEM:
  •   GBMNE89871-22
  •   GBMNE89872-22
  •   GBMNE89873-22
  •   GBMNE89874-22
  •   
  • 【参考資料】
  • 関連論文:
  • New records of Ctenolepisma calvum (Ritter, 1910) (Zygentoma, Lepismatidae) from Japan.
    Megumi Shimada, Hiroki Watanabe, Yukio Komine, Rika Kigawa, Yoshinori Sato. Biodiversity Data Jornal.
    DOI: 10.3897/BDJ.10.e90799 (2022)
    マダラシミおよびニュウハクシミに対するベイト剤の殺虫効果
    小野寺裕子・島田潤・渡辺祐基・小峰幸夫・木川りか・佐藤嘉則
    『保存科学』第62号(2023) pp.193-198

  • その他の論文等