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年報の発刊にあたって

 平成22(2010)年度は、(独)国立文化財機構の5ヵ年中期計画(平成18〜22年)の最終年度にあたります。
 この5年間で実施されてきた当研究所の研究計画や事業計画は、「わが国の文化財の研究を、基礎的なものから先端的・実践的なものまで、多様な手法により行い、その成果を積極的に公表する。また、文化担当者の研修、地方公共団体への専門的な助言を行う。さらに、機構の有する保存科学・修復技術に関する知見・技術を集約し、わが国の拠点としての役割を果たす。また、世界の文化財の保存・修復に関する国際的な研究交流、保存修復事業への協力、専門家の養成、情報の収集と活用等を実施し、文化財保護における国際的拠点としての役割を担う」と定めた中期計画の基本方針に沿って実施されてきたものです。各プロジェクト研究等は、概ね順調に所定の成果を上げることが出来たものと確信していますが、ここで主な成果を紹介します。
 企画情報部では、「東アジアの美術に関する資料学的研究」で、待望久しい『日本絵画史年紀資料集成  十五世紀』を刊行しました。また、『美術史研究』400号及び韓国の『美術史論壇』30号の刊行記念事業として、美術史における評価等に関する日韓共同シンポジウムを両国で開催し、今後の東アジア美術史研究を展開する上での足掛かりが得られました。
 無形文化遺産部では、「無形文化財の保存・活用に関する調査研究」で、古典芸能の音声資料、能管の製作技法書の翻刻、既存の江戸小紋に関する工芸技術の記録の整理等、5年間の成果を総括して、『無形文化遺産の伝承に関する資料集』を刊行しました。このほか、早稲田大学との共同研究で戦前に開発・実用化された国産の音声記録媒体フィルモン音帯に関する研究を取り纏めています。
 保存修復科学センターでは、有形文化財等の保存修復に関する基礎的研究を推進したほか、文化庁の委託事業として引き続き、高松塚およびキトラ両古墳の壁画保存のための調査研究を奈良文化財研究所と共同で行いました。このうち、キトラ古墳では困難を極めた石室からの壁画の剥ぎ取り作業が無事終了したことで、壁画保存問題は一つの山を越えたということができます。
 文化遺産国際協力センターでは、中国、ベトナム、タイ、インドネシアなど諸外国の文化財保護のための技術協力事業等を行っていますが、このうち、ユネスコの日本信託基金によるアフガニスタンの「バーミヤーン遺跡の保護」事業では、現地の保存修復作業を実施したほか、引き続いて現地専門家を国内に招聘し、保存修復に関する研修を行いました。また、文化庁の文化遺産国際協力拠点交流事業として、近年中央アジア地域の文化遺産を対象とした協力事業が進展しています。このうちタジキスタンでは、国立古代博物館蔵の壁画断片の保存修復に絡んで、現地で専門家の技術研修を行い歓迎されました。
 このほか、当研究所では、文化財に関する様々な公開講演会を実施し、ホームページでの情報公開の充実を図るなど研究成果の情報公開等にも努めています。さらに、子ども向けのパンフレット「東京文化財研究所ってどんなところ?」(改訂版)を近隣の学校に配布したほか、隣接する区立上野中学校の協力を得て、研究所の活動を紹介した出前展示会を開催するなど学校教育との連携にも努めました。
 ところで、年度末の3月11日に東日本大震災が発生しました。現在、被災地域の復興、被災者の生活再建のための努力がはらわれていますが、広範囲にわたる被災文化財の救出とその修復へ向けての取り組みも急務となっています。当研究所では総力を挙げてこの国難ともいうべき課題に取り組んでまいりたいと考えていますので、関係各位の一層のご理解ご協力ご支援をお願いする次第です。

 平成23年(2010)5月

独立行政法人国立文化財機構
東 京 文 化 財 研 究 所
所 長   亀  井  伸  雄
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