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緒    言

 2001 (平成 13 )年 4 月 に、 東京と奈良の両研究所が統合されて独立行政法人文化財研究所となり、 5 年が経ちました。独立行政法人化にともない策定された 5 ケ年の中期目標に基づく中期計画は、 17 年度をもって所期の目的を達成し終了しました。
 昨年度は中期計画の最後の年度であっただけに、多くのプロジェクト研究がこれまでの研究内容を総括し、報告書やデータベースなどさまざまな形でその研究成果を公表するまでに至りましたが、また一方では、次期中期目標に向け、文化財の保存と活用を目指したプロジェクト研究の将来像を展望し、準備する年であったと言えます。それだけに当研究所における昨年度の活動を回顧しますと、我が国における文化財研究の中核的研究機関として、多様な業務を実施するとともに、多くの情報や文化財の保存と活用に役立つ研究成果を提供できたものと考えております。
 まず、文化財に関する調査研究については、東アジア地域における美術交流の歴史や日本美術に及ぼした影響について解明した『日本における外来美術の受容に関する報告書』、我が国の近代美術の発達に関する研究をすすめるための『昭和期美術展覧会出品目録 戦前篇』、歌舞伎・文楽の上演稀少演目の上演実態等について 調査研究した『能楽・三番叟(三)の技法』などを刊行してきたほか、 伝統芸能の変遷に関する調査研究の一環として「伝統楽器・所在データベース」を作成してきました。
  また、文化財に関する基礎的研究を踏まえ、文化財の保存と活用の充実を図るために必要なさまざまな基礎資料を収集し、分析するとともに、文化財の調査・保存・修復・整備・活用などに関する実践的な調査・研究を実施してきました。とくに、文化財の彩色材料については、非破壊測定法の実用化を目指して科学的手法を用いた新たな保存修復技術 ・ 方法の開発を進め、その成果の一部として「画像形成技術の開発に関する研究」報告書『国宝 絹本著色十一面観音像』を刊行しました。
 さらに、 文化財の生物被害処置に用いられてきた臭化メチルが、 2005 (平成 17 )年初に全廃されるのに先がけ、 臭化メチル燻蒸代替法及び殺菌・防カビ法の開発に取り組み、以後も継続して、 文化財や人体に対する化学薬剤の影響を考慮した文化財の生物被害防止法である IPM (総合的有害生物管理)手法の確立とその普及に努めてきました。
 文化財の修復に関しては、古糊やフノリなどの伝統的な修復材料の素材に関する物性を解明するとともに、文化財修復の新たな素材と技法の開発、ならびにレーザーによる文化財クリーニング法について目途をつけることができました。
 このほか、文化財の調査・研究に関する国際交流・協力についてもさまざまな取り組みを実施しました。例えば、諸外国の文化財の保護制度に関する調査・研究としてオランダの文化財保護制度と保存活用に関する調査を実施したほか、文化財保存修復研究センター( ICCROM )との「国際研修 漆の保存と修復」の共同開催や、 第 29 回文化財の保存・修復に関する国際研究集会「シルクロードの壁画が語る東西文化交流」の実施を通じて、文化財保存修復に関する国際研修等を推進できました。
 今後も、当研究所は、我が国における文化財研究の中核的研究機関の一つとして、文化財の保存と活用の充実に向けた重要な役割を担っていく所存ですので、今後とも、皆様のご支援とご理解を心よりお願い申し上げます。

 

 2006(平成18)年5月

独立行政法人文化財研究所
東京文化財研究所
所長  鈴 木 規 夫
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