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緒    言
 独立行政法人となった当研究所は、文部科学大臣から指示された中期目標を達成すべく立案され、文部科学大臣によって認可された中期計画に従って、研究等の諸業務を行っている。中期計画は5ヶ年を単位として立てられており、その変更は制度的には可能であるが、実際的には余程のことがない限り起き難い。中期計画の実施案としての年度計画も継続的研究については、その内容は前年度の影響を受けて、より具体的になるという変化はあっても根本的な変更は起こり難くなっている。学術振興会の研究助成金を得る努力も例年と変わりなく行われ、実績を挙げている。当研究所の業務は安定的に、かつ確実性をもって遂行されていると思う。しかし、文化財の保存に関する問題は突発的に生じ、それへの対応を緊急に求められることがある。また今日では、文化財保存協力が国際問題として動き、それへの対応が社会的にかつ外交的にも求められることもある。平成14年度については高松塚古墳壁画の保存について文化庁の要請があり、相当数の人員と日数をこれらに充て、他方、文化庁、外務省が関わっているアフガニスタン文化財の保存協力活動にも、参加と協力を求められ、今日もこれに関わっている。この種の仕事は当研究所が果たすべき責任の内にあるものとして積極的に対応してきた。しかしその業務の量が増大すると、中期計画に基づく年度計画の順調な遂行に影響を与え、業務の評価にも影を落としかねないことになる。文化財研究所とは、またその評価とは何かを改めて考え直す必要があると思う。
 ともあれ当研究所の経常的な研究業務は、緊急かつ予定外の業務が多かったにもかかわらず、支障をきたすことなく着実に成果を挙げていることは評価したい。
 国の交付金による研究の中で近代歌舞伎の伝承に関する研究は、当研究所の研究者である研究分担者が、関連学会の栄誉を受けたが、研究全体の評価に一定の理解が得られたものと思う。『木村荘八日記〔明治篇〕校註と研究』では近現代美術研究者と文学史、近世史の研究者の合力によって、資料紹介以上の作となっている。
 文化財の修復材料や科学的調査研究に関しては、古糊の物性解明の研究は、書画の修復技術者に相当の影響力を持つようになるであろう。臼杵磨崖仏群の調査は、平成12年度に自治体と協力、覚書を交し、次期修復と長期保存に貢献する目的で開始したが、損壊のメカニズムも明らかになり、モニタリングシステムの構築など、このプロジェクトの有効性が立証されつつある。臭化メチル燻蒸代替法の研究も様々な実験データーが発表され、実用代替法の成立を期待ももって待てるようになったと思う。絵画などの彩色材料の分析研究も、画像形成技術の研究と連携しながら進められ、歴史的、美術的に有力な文化財を対象に新しい知見を得るようになってきている。そしてこれらの成果が、科学的文化財修理調査に新しい刺激を与えていることは重要である。永年、共同研究を行って来た敦煌研究院でも、当研究所の新しい調査技術と高い調査能力に、共同研究の新しい展開を期待しているようである。
 国際協力事業はこのところ少しく拡大しているが、ユネスコ信託基金による龍門石窟の保存に関するコンサルタント業務は、少なからぬ苦労があったが、担当者の努力で初年度の報告書を出すことが出来た。
 各種研究会は今年も盛んであったが、多くの研究会の開催は、当研究所活動の特色の一つであり、その動向、成り行きが注目される。各部持ち回りで行う、年1回の国際シンポジウムは、今年は美術部が担当し、「うごく モノ―時間・空間・コンテクスト―」という主題で実施された。やや難解な主題であるが、発表と討論が進むにつれ、文化財研究の新しい視点を提供啓発するものとして評価を得たようである。アフガニスタンの文化財保護の国際協力活動のことについては先に触れたが、その関連でアフガニスタンから、2名の責任ある地位にある専門家を招いて研究会を開催しているが、このような時代を映す研究会は当研究所の特色である。今後もこの視点は保持してゆくべきものと考えている。

 2003(平成15)年5月

独立行政法人文化財研究所
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所長  渡 邊 明 義
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