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緒    言
 東京国立文化財研究所は平成13年4月1日を以て奈良国立文化財研究所と統合し、独立行政法人文化財研究所 東京文化財研究所となり、新たな活動を開始した。独立行政法人とそうなる以前の活動の在り方とは大きな違いがあり、研究所の諸活動は文部科学大臣から指示された中期目標を達成すべく行われなければならないことになった。このために研究所の活動全般にわたって、事務的部分を含めて中期目標に対応した5ヶ年を単位とする中期計画を立て、文部科学大臣は文部科学省の下に設置された評価委員会の意見を聴いた上でこれを認可し、研究所は認可された中期計画の年度計画を立てて、その年度計画については文部科学省に届出するという手続きをとることになった。
 また、その活動の結果は文部科学省に設置された評価委員会の評価を得ること、その前段階の手続きとして、自己点検評価を行い、これを公正化する外部評価を受けることが義務化された。当研究所はこれまでも多年度にわたる研究計画を立てて活動して来たが、この新制度に対応すべく諸活動を点検し、研究計画を立案し直した。その作業は平成13年度予算の概算要求後に始まった関係もあり、予算との関係が曖昧なままに進めざるを得ず、研究計画については研究者の立場を反映してかなり盛り沢山となった嫌いがある。しかし別の見方をすればそれは研究者の意欲の現れであり、研究をはじめとする諸活動は滞りなく進められた。在外日本古美術品修復協力事業に関しては、米国・ニューヨークを襲った同時多発テロの影響で予定の調査活動の実施に少々の遅れが生じたが、それも全て年度内に調査を済ませ、事業そのものには影響がでなかったのは幸いであった。
 研究調査活動は着実に実績を挙げている。「近代美術の発達に関する調査研究」では1900年のパリ万博でコミッショナーとして活躍した林忠正の書翰集を編集刊行し、「科学的手法を用いた新たな保存修復技術の開発」では臭化メチル全廃の対策の一つとして「害虫事典」の刊行があり、厳島神社の高舞台の修復に直接的に資する漆塗装に関する新しい技術開発があり、彩色文化財の技術的構造の解明や、映像技術利用の開発と標準化の研究も実績を挙げている。研究集会の関連では芸能部が担当した「日本の楽器−新しい楽器学へ向けて−」は美術部や修復技術の研究者の協力を得て、当研究所らしい特色が加えられ、成功であったと思う。今年度で10回を数えるアジアセミナーはこれまでの方法を改めて、各国の文化財保護の枠組を主題に5ヶ年継続として行うことになった。このセミナーによって、アジア各国の文化財保護関連の法律も一遍に集積することが出来た。またイランから初めて参加者の来日があったことも評価される。この他各種大小の研究会は数多く開催されたが、この盛んな研究会活動は、当研究所の文化財とその保存の研究においてセンターとしての役割を十分に果たしていることを証するものである。
 国際協力事業としてはユネスコ信託基金による世界遺産である中国・龍門石窟の保存事業に協力することになり、ユネスコ北京事務所と正式にコンサルタント契約を結んだ。これに関連する人材の育成についても外部資金を得て実施されている。この種の国際協力事業は今後、発展する余地が十分に在るが、問題は人ということになるであろう。
 当研究所の研究活動は国から交付金によって賄われているものの他、学術振興会の科学研究費によるものが相当数ある。これ等は中期計画には記載されていないが、中期計画の研究主題と関連するものもあり、また研究所全体の研究活動の中で重要な位置を占めている。受託研究も同様である。このような観点から2001年度(平成13年度)の年報から各々の研究についての成果の概要を示すことにした。関連の研究報告書も内容あるものが次々と刊行されていることは喜ばしいことである。
 因みに年報は当研究所の評価の重要な参考資料となるべき任務を帯びている。改善すべき点があれば積極的に改善してゆく所存である。御指教を期待している。

 2002(平成14)年5月

独立行政法人文化財研究所
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所長  渡 邊 明 義
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