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◎第3回文展作者の談-黒田清輝君

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 私の画には苦心の作と云ふのはない……私の出品は、一年中に出来た画の中で、最も自分の意に適ふたのを出すのです、……私の画は皆客観的で、主観的と云ふのではない。観察も画法も自然に対して製作をする其時々で違ふのです、自然に対して最も面白く感じたところを捉へて描くのですから、私の画は或は一種のスケツチだと云へば云へないこともない。……今年の出品に就ては、先頃自分の庭で描いた「百合の花」と、「寺尾博士の肖像」とを出さうと思ふ。今度博士が在職二十五年に就て其祝意をする為めに、大学の教授や其他有志の人達から、博士の肖像を二枚こしらへて、一つは博士に贈呈し、一つは天文台に置くことになつて、其の一つは和田(英作)君が画いた、私の画いたのは博士に呈する方です。博士には私は古い縁故があるので--博士が前に洋行から帰朝されたとき、私は博士に就て始めて仏蘭西語を習つたことがある。今度博士の肖像画を画いたことは、大に幸福に感じたところで、大に博士の性格を表はさうと思つて画いた、勿論写真からでなく、博士に座つてもらつて画いたので、片光線の妙な画ですがネ……。(出品前)
  (「美術新報」9-1  明治42年11月1日)
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