| 展覧会（てんらんくわい）としては良（い）い参考品（さんかうひん）も有（あ）るし生徒（せいと）の作品（さくひん）も一般（ぱん）に歩調（ほてう）が整（とゝの）つて居（ゐ）て始末（しまつ）に困（こま）るやうな変（かは）り物（もの）もない画（ゑ）が沢山過（たくさんす）ぎて見悪（みにく）いと云（い）ふ評（ひやう）も幹部連（かんぶれん）が振（ふる）はないと云（い）ふ評（ひやう）が有（あ）るが生々（いきいき）した生徒（せいと）の作品（さくひん）は却（かへつ）て老大家（らうたいか）の作（さく）に接（せつ）するよりも心強（こゝろづよ）い幹部（かんぶ）の方（はう）でも生徒自身（せいとじしん）に自己（じこ）の技倆（ぎりやう）を知（し）らしめ生徒（せいと）の父兄（ふけい）にも其成績（そのせいせき）を示（しめ）す心算（つもり）で鑑別（かんべつ）したと云（い）ふ事（こと）である要（えう）するに今回（こんくわい）のは後進奨励（こうしんしやうれい）の展覧会（てんらんくわい）であらうと思（おも）はれる＠△第（だい）一室（しつ） 此室（こゝ）には別（べつ）に見（み）る可（べ）きものがない金澤重治君の通三丁目は再（さい）三公開（こうかい）の場所（ばしよ）で拝見（はいけん）した画（ゑ）だ得意（とくい）のものらしい丈（だけ）に難（なん）は無（な）いが日本（にほん）の色（いろ）とは思（おも）へない正宗得三郎君の落椿は難物（なんぶつ）だ毛色（けいろ）が変（かは）つて居（ゐ）るとは云（い）ふものゝ着色（ちやくしよく）の筵（むしろ）としか見（み）へない斎藤松太郎君の小女像は味（あぢ）の無（な）い画（ゑ）だが真面目（まじめ）な点（てん）を採（と）る手（て）の指（ゆび）の短（みじ）かいのは目（め）につく＠△第（だい）二室（しつ） 彦坂楊亮君の風景は調子（てうし）の良（い）い画（ゑ）だ併（しか）し是（これ）だけでは未（ま）だ完成（くわんせい）したものとは思（おも）はれない前景（ぜんけい）の草原（くさはら）も物淋（ものさび）しい萬代恒志君の白壁は名（な）のみで画（ゑ）は灰壁（はいかべ）である色（いろ）が濁（にご）つて生気（せいき）が無（な）い他（た）を模倣（もはう）する態度（たいど）が余（あま）りに鮮明過（せんめいす）ぎる青山熊治君のアイヌは却々（なかなか）の大作（たいさく）で苦心（くしん）の程（ほど）も察（さつ）せられる立（た）て居（ゐ）る人間（にんげん）は好（い）いが後向（うしろむき）の人間（にんげん）は身体（からだ）が堅（かた）くて運動（うんどう）が出来（でき）さうにも思（おも）へぬ夜（よる）の光（ひかり）の感（かんじ）は可成（かなり）に出（で）て居（ゐ）るが中心点（ちうしんてん）を中央（ちうおう）に置（お）いた平凡（へいぼん）な構図（こうづ）の爲（た）めに折角（せつかく）の大作（たいさく）も少々見栄（せうせうみばえ）がしない清水勘一君の小雨の海は若（も）し中沢弘光君（なかざはひろみつくん）の記号（さいん）が書（かい）てあつたら人（ひと）は大（おほい）に感心（かんしん）するのであつたらうに…＠△第（だい）三室（しつ） 此室（こゝ）は小品（せうひん）が窮屈相（きうくつさう）に並（なら）んで居（ゐ）る鍋井克巳君の頂は好（い）い小川兵衛君の曇り及（およ）び其左隣（そのとなり）の画（ゑ）は西洋臭（せいやうくさ）い色（いろ）だが面白（おもしろ）い快感（くわいかん）を与（あた）へる画（ゑ）だ＠△第（だい）四室（しつ） 白馬会（はくばくわい）の水彩画（すゐさいぐわ）は振（ふる）はない南薫造君のウイゾールは無難（ぶなん）だ他（た）に七八点（てん）あるが色（いろ）が一様（やう）に灰色（はいゝろ）なので地方色（ろーかるからー）が出（で）て居（ゐ）ない黒田清輝君の婦人の肖像は…小品物（せうひんもの）の水の辺りの横臥（わうぐわ）して居（ゐ）る人間（にんげん）の足（あし）の長（なが）さにも驚（おどろ）いた森の中は流石（さすが）に老練（らうれん）の筆致（ひつち）が偲（しの）ばれた湯浅一郎君の婦人は色（いろ）が鮮明（せんめい）で愉快（ゆくわい）なだけに、如何（どう）かすると下品（げひん）に見（み）える顔（かを）が大（おほ）きいのが欠点（けつてん）だ＠△第（だい）五室（しつ） 湯浅一郎君の洋行土産（やうかうみやげ）は二十余点（よてん）ある水彩画（すゐさいぐわ）は色（いろ）の強（つよ）い堅（かた）い画（ゑ）だ油画（あぶらゑ）の中（なか）では村娘（むらむすめ）が確（し）つかりして居（ゐ）る併（しか）し永年滞欧（ながねんたいおう）した人（ひと）の作品（さくひん）としては余（あま）り見答（みごたへ）が無（な）い矢崎千代治君のは随分有難（ずゐぶんありがた）いものもあるが水遊は飄逸（へういつ）なものだ子供（こども）の臀（しり）が三段（だん）になつた処（ところ）も愛嬌（あいけう）だ水（みづ）も面白（おもしろ）い中沢弘光君は更（さら）に振（ふる）はない長原孝太郎君の新聞を見（み）ては坐（そゞ）ろ徃年（わうねん）の元気（げんき）を想（おも）ひ現在（げんざい）の同氏（どうし）が若（わか）い人（ひと）に画筆（ぐわひつ）の鞭（むち）で追（お）はれて居（ゐ）る苦衷（くちう）を察（さつ）する小林鐘吉君の曇の海は同君（どうくん）の作品（さくひん）としては出来（でき）の良（い）い方（はう）だらうが縮緬（ちりめん）に書（か）いたものゝやうだ跡見泰君の泊船遠景（ゑんけい）の船（ふね）は不必要（ふひつえう）ぢやあるまいか遠近法（ゑんきんはふ）も変（へん）だ他（た）の二点（てん）は大作（たいさく）で且愚作（かつぐさく）だ岬は調子（てうし）の良（い）い画（ゑ）だ藤島武二君の滞欧記念（たいおうきねん）スケツチが三十点余（てんあま）りある筆（ふで）が簡単（かんたん）で要（えう）を得（え）て居（ゐ）る其（そ）の土地（とち）の特徴（とくちよう）をも一々捉（とら）へて居（ゐ）るが是（これ）も湯浅君同様予期（ゆあさくんどうやうよき）した程（ほど）の物（もの）が無（な）いは失望（しつばう）だが秋（あき）の文部省（もんぶしよう）に定（さだ）めし人目（ひとめ）を驚（おどろ）かせる心組（こゝろぐみ）だらうと思（おも）つて待（ま）つて居（ゐ）る三四四、三四七、三六０等（とう）は面白（おもしろ）く見（み）た夏の月夜と云（い）ふ画（ゑ）を見（み）て拙（まづ）いと叫（さけん）で後目録（のちもくろく）を見（み）て黒田清輝君なのに驚（おどろい）て居（ゐ）た素人（しろうと）があつた白馬会（はくばくわい）の主将（しゆしやう）だから上手（うまい）と決（きまつ）た訳（わけ）でも無（な）いやうだ |
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