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白馬会関係新聞記事 第13回白馬会展

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白馬会(はくばくわい)を観(み)る(一)
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| 魚田生 | 時事新報 | 1910(明治43)/05/18 | 7頁 | 展評 |
文部省(もんぶしよう)の公設展覧会(こうせつてんらんくわい)が開(ひら)かれる様(よう)になつてから作家(さくか)の多(おゝ)くは主(おも)に其方(そのほう)に力(ちから)を集注(しうちう)する傾(かたむき)があるので、自然年々(しぜんねんねん)の私設展覧会(しせつてんらんくわい)が以前(いぜん)の様(よう)に振(ふる)はなくなつた、白馬会(はくばくわい)のも此両(このりよう)三年間多少其傾向(ねんかんたしようそのけいこう)がある、今回(こんくわい)も出品点数(しゆつぴんてんすう)に於(おい)ては実(じつ)に従来(じうらい)に例(れい)のない多数(たすう)で其総数(そのそうすう)六百有余点(ゆうよてん)の多(おゝ)きに達(たつ)して居(ゐ)るが其内(そのうち)の大部分(だいぶゞん)は新進画家(しんしんぐわか)の作品(さくひん)であつて大体(だいたい)に於(おい)て是等新作家(これらしんさくか)の進歩(しんぽ)と熱心(ねつしん)とを認(みと)める事(こと)は出来(でき)るが中(なか)に就(つい)に多少見耐(たしようみごた)へのある作品(さくひん)を求(もと)める事(こと)になると存外寥々(ぞんぐわいりようりよう)たる感(かん)じがある。@今此多数(いまこのたすう)の出品(しゆつぴん)を一々評(ひよう)し去(さ)る事(こと)は到底紙面(とうていしめん)の許(ゆる)す限(かぎ)りでないから特(とく)に評者(ひようしや)の注意(ちうい)を惹(ひ)いたものゝみを挙(あ)げて之(こ)れに略評(りやくひよう)を加(くわ)へ様(よう)と思(おも)ふ。@小峰幸祐氏「犬吠岬(いぬぼうみさき)の夕(ゆうべ)」色彩(しきさい)が奇麗過(きれいすぎ)るのと筆(ふで)の堅(かた)いのは困(こま)るが大体(だいたい)に於(おい)て丁寧(ていねい)な出来(でき)で難(なん)が少(すく)ない夕(ゆう)べの感(かん)じは今(いま)一息(いき)だ。@植草四方作氏「森(もり)の漏日(もれび)」好(よ)い色(いろ)ではあるが今少(いますこ)し深味(ふかみ)のある暗(くら)い調子(ちようし)で行(ゆ)きたかつた、樹幹(じゆかん)の丸味(まるみ)も十分(ぶん)でない地面(ぢめん)の影(かげ)は少(すこ)し暖(あたゝ)か過(すぎ)ると思(おも)ふ。@山田実氏「街(ちまた)」筆(ふで)に面白(おもしろ)い処(ところ)はあるが色(いろ)の観察(くわんさつ)にはまだまだ研究(けんきう)の余地(よち)がある。青山熊次氏「アイヌ」数人(すうにん)のアイヌが爐(ろ)を囲(かこ)んで愉快気(ゆくわいげ)に放歌談笑(ほうかだんしよう)せる光景(こうけい)を描(か)いたもので、和田(わだ)三造氏(ぞうし)の▲燻(いくん)を聯想(れんそう)させる様(よう)な調子(ちようし)の絵(ゑ)だデツサンに多少怪(たしようあや)しい点(てん)があるのと光(ひかり)と色(いろ)の調子(ちようし)が稍(やゝ)一様(よう)になつた感(かん)じがあるのは残念(ざんねん)だ、苦心(くしん)の割合(わりあい)にはえないのは至當(しとう)であらう、併(しか)し是丈(これだけ)のコムポジシヨンを是迄(これまで)に画(か)き上(あ)げるのは容易(ようい)な事(こと)ではないので作者(さくしや)の苦心(くしん)と努力(どりよく)に対(たい)しては充分(じうぶん)に敬意(けいゝ)を払(はら)う価値(かち)がある。@鎌尾武雄氏「農商務省(のうしようむしよう)」色(いろ)の調子(ちようし)は結構(けつこう)だが水(みづ)に映(うつ)ツた影(かげ)の筆(ふで)が堅(かた)いのと色(いろ)の強(つよ)いのとで少(すく)なからず全体(ぜんたい)の調子(ちようし)を妨(さまた)げてる。南薫造氏「ウインゾル」「倫敦(ろんどん)ハンマースミス橋(ばし)」「風景(ふうけい)」何(いづ)れも水彩(すいさい)のスケツチだ九点程(てんほど)の出品(しゆつぴん)の中(なか)で此(この)三点(てん)が最(もつと)も優(すぐ)れて見(み)える、色(いろ)にも筆(ふで)にも何処(どこ)か浅井式(あさいしき)の処(ところ)が見(み)えて能(よ)く水絵(みづえ)の特色(とくしよく)を発揮(はつき)して居(い)るのは嬉(うれ)しかつた、只全体(たゞぜんたい)に色彩(いろどり)が単純(たんじゆん)な爲(た)めに多少奥行(たしようおくゆき)の足(た)りない感(かん)じはある。@黒田清輝氏「森(もり)の中(なか)」パステルの瀟洒(しようしや)たる小品(しようひん)ではあるが老熟(ろうじゆく)なる筆(ふで)の内(うち)に何処(どこ)か動(うご)かす可(べ)からざる確(たし)かな処(ところ)がある、此他(このた)には「庭前(ていぜん)の雪(ゆき)」「初秋(はつあき)」「秋(あき)の色種(いろぐさ)」等(とう)のスケツチがあつて、何(いづ)れもよく氏(し)の特色(とくしよく)を発揮(はつき)して居(い)る。

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