| 次（つぎ）に白馬会（はくばくわい）の先達黒田清輝氏（せんたつくろだきよてるし）の大隈伯肖像（おほくまはくせうざう）ハ如何（どう）しても気品（きひん）の有（あ）る処（ところ）から、一目（もく）して大家（たいか）の作（さく）と判（わか）るので有（あ）る。他（た）に肖像（せうざう）が幾点（いくてん）も有（あ）るが之（こ）れ位品位（くらゐひんゐ）の有（あ）る画（ぐわ）ハ他（た）に求（もと）むる事（こと）が出来（でき）ぬのハ如何（どう）しても争（あらそ）はれぬ者（もの）で有（あ）る。＠花（はな）の四枚（まい）の中（なか）でハ芥子（けし）の花（はな）などハ好（す）きで有（あ）る。静物（せいぶつ）なども見（み）て居（ゐ）れば見（み）てゐる程好（ほどよ）くなつて来（く）る。之（これ）を見（み）てハ他（た）の静物画（せいぶつぐわ）の筆力（ひつりよく）の無（な）いのが見窄（みすぼ）らしい位（くらゐ）。＠小林萬吾氏（こばやしまんごし）の樹蔭（じゆいん）ハ画面（ぐわめん）の半分（はんぶん）から下（した）が最（もつと）も佳（よ）く乳母車（うばぐるま）などハ好（よ）い様（やう）だが上部（じやうぶ）の木（こ）の葉（は）などハ少（すこ）しく感服（かんぷく）が出来（でき）なかつた。＠藤島武（ふじしまたけ）二氏（し）の画（ぐわ）ハ装飾用（さうしよくよう）の二面（めん）の中（なか）でハ蝶（てふ）が面白（をもしろ）いが朝（あさ）の方（はう）にハ黒田氏（くろだし）の面影（をもかげ）が見（み）えてゐて面白（をもしろ）いと或人（あるひと）が云（い）つてゐた。＠橋本邦助氏（はしもとくにすけし）の作（さく）でハ静物画（せいぶつぐわ）に最（もっと）も其（そ）の技倆（ぎりやう）を見（み）る可（べ）く、薔薇（ばら）の画（ゑ）に描（ゑが）いて有（あ）る硝子（がらす）などハ実（じつ）に巧（たくみ）なものだ。惜（を）しい事（こと）にハ草花（くさはな）の茎（くき）が花葵（はなあふい）も雑花（ざふくわ）も一様（やう）に只描（ただゑが）いたと云（い）ふ計（ばか）りで花（はな）などに比（くら）べると多少無雑作（たせうむざうさ）に描（ゑが）き過（す）ぎて有（あ）る。眠（ねむ）れる小児（せうに）ハ可憐（かれん）の作（さく）で有（あ）る。＠中丸精（なかまるせい）十郎氏（らうし）の作（さく）でハ草原（くさはら）が最（もつと）も面白（をもしろ）い。此（こ）の画（ぐわ）ハ近（ちか）く寄（よつ）て見（み）ると多少（たせう）の欠点（けってん）が有（あ）る様（やう）だが少（すこ）し離（はな）れると非常（ひじやう）に好（よ）い心持（こゝろもち）がする画（ゑ）で有（あ）る。＠第（だい）五室（しつ）のウヰツマン夫妻（ふさい）の画（ぐわ）ハ参考品（さんかうひん）の無（な）い日本（にほん）にハ多少参考（たせうさんこう）になるもので有（あ）る。牧場（ぼくぢやう）の朝霜（あさしも）ハ秋（あき）の月（つき）の末（すゑ）から初冬（しよとう）にかけて日本（にほん）などでも彼（かく）の如（ごと）き風景（ふうけい）に接（せつ）する事（こと）が有（あ）る。水（みづ）に映（うつ）る家（いへ）ハ手前（てまへ）が最（もつと）も感服出来（かんぷくでき）ぬものだ。＠白百合（しろゆり）ハ草（くさ）の描（ゑが）き方（かた）が女丈（をんなだけ）に小細工（こざいく）を弄（ろう）してゐて良人程（をつとほど）にこなれてゐない。＠参考品（さんかうひん）でハコローの模写（もしや）、筆者不詳（ひつしやふしやう）の老婆（らうば）など最（もつと）も面白（をもしろ）い。 |
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