| 第（だい）二室（しつ）で先（ま）づ眼（め）を惹（ひ）くハ岡吉枝の色鉛筆（いろえんぴつ）スケツチで、色鉛筆（いろえんぴつ）で好（よ）くあれ迄（まで）に描（ゑが）いた物（もの）だと思（おも）はれるのが多（おほ）い＠湯浅一郎の平潟（ひらかた）、磯（いそ）の浜（はま）、磯（いそ）、の三枚（まい）ハ最（もつと）も珍品（ちんぴん）で油画（あぶらゑ）の出品（しゆつぴん）ハ之迄毎度見（これまでまいどみ）た事（こと）が有（あ）るが水彩（すゐさい）ハ今年（こんねん）が初（はじめ）で有（あ）るのだ。中（なか）で六十六号（がう）の磯（いそ）の浜（はま）なぞハ最（もつと）も面白（おもしろ）い＠模写（もしや）の方（はう）は四枚有（まいあ）るが二百九十六号（がう）がヴエラスケスの画（ゑ）を和田英作が写（うつ）したもので、其他（そのた）ミレーの落穂拾（らくほひろ）ひ、クウルベの波（なみ）の二枚（まい）ハ同（おな）じく和田氏の模写（もしや）で有（あ）る。＠中央（ちうわう）に最（もつと）も人目（ひとめ）を惹（ひ）くのが月神（げつじん）の画（ゑ）で裸体（らたい）の婦人（ふじん）が空中（くうちう）で月（つき）を弓（ゆみ）にして引絞（ひきしぼ）つてゐるのだ、元（もと）は仏国（ふつこく）のロサンに出（で）たゴブラン織（をり）の下絵（したゑ）なのだが山本芳翠が初（はじ）めて模写（もしや）と云（い）ふ事（こと）に手（て）を付（つ）けた画（ゑ）で有（あ）るから日本（にほん）の洋画史（やうぐわし）の上（うへ）から見（み）れバ中々面白（なかなかおもしろ）い物（もの）で有（あ）る。＠ミレーの落穂拾（らくほひろ）ひハ近来流行語（きんらいりうかうご）になつて居（ゐ）る処（ところ）から館中第（くわんちうだい）一なぞと云（い）ふ素人見物（しろうとけんぶつ）の声（こえ）が有（あ）るが模写（もしや）する人（ひと）が元来器用（ぐわんらいきよう）なので、ミレーの不器用（ぶきよう）の様（やう）な実直（じつちよく）な画風（ぐわふう）と相馳駢（あいちへい）して居（ゐ）る様（やう）でミレーの画（ゑ）の底からハ絶（た）えず和田氏（わだし）の才筆（さいひつ）が顕（あら）はれてゐる様（やう）である。＠然（しか）し日本（にほん）の如（ごと）き参考（さんかう）とすべき名画（めいぐわ）の乏（とぼ）しき国（くに）に有（あつ）てハ之（こ）の如（ごと）き模写（もしや）は実（じつ）に或（あ）る一種（しゆ）の指南車（しなんしや）たるもので有（あつ）て後学（こうがく）の士（し）ハ之（これ）に依（よつ）て益（えき）する事（こと）が多（おほ）いで有（あ）らう。 |
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