|
目下上野公園に開会（かいくわい）せる白馬会展覧会の出品中美術画（びじゆつぐわ）に布片を纏（まと）はしめたるに付き昨今非難（ひなん）の声高けれども右に就ては曩に下谷署長警視庁に出頭（しゆつとう）し此度の出品中には風俗壊乱（ふうぞくゝわいらん）の嫌ひあるものあり是等を公衆（こうしう）に縦覧（じうらん）せしむるは甚だ不都合（ふつがふ）なれども又美術（びじゆつ）と云へる点より見れば全然（ぜんぜん）出品を禁（きん）ずべきにもあらざれば風俗取締（ふうぞくとりしまり）の上よりして公衆（こうしう）の縦覧を禁じ美術奨励（びじゆつしやうれい）の点より是を別室に集めて斯道（しだう）に関係（くわんけい）あるものゝみに閲覧（えつらん）を許さんと稟議（りんぎ）したる事あり其後署長と白馬会との間に交渉（かうせふ）したるに黒田清輝の如きは熱心（ねつしん）に一般公衆に縦覧（じうらん）せしめたしと希望（きばう）するより多分警察は臨機（りんき）の処置（しよち）を為したるものならん尤も警視庁の意見（いけん）は欧洲にて裸体画（らたいぐわ）を美術品として縦覧せしめ風俗の上より怪まざるは蓋し希臘の昔婦女の局部を神なりと妄信（ばうしん）したる時代より進んで裸体（らたい）の全身を画き崇信（そうしん）したりしが此の風俗漸次（ぜんじ）欧米に蔓延（まんえん）し今日の如く敢て怪まざることゝなりしなり左りながら我日本には古来（こらい）日本の風俗（ふうぞく）として見るべき特色（とくしよく）ありて自から国風を為せり日進文化（につしんぶんか）の今日なれば素より欧米の美風長所（びふうちようしよ）は取て以て我短を補ふに吝ならざるも如何せん裸体画（らたいぐわ）の如きは美術としては兎も角も風俗（ふうぞく）の上よりすれば断じて取締（とりしま）らざるを得ざるなり云々 |
目次 |
戻る 
進む 