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年報の発刊にあたって

   平成20(2008)年度は、独立行政法人化後の第2期5ケ年計画の第3年度に当たり、第2年度初頭に独 立行政法人国立博物館との統合という組織体制の大きな変革がありましたが、研究所の中期計画・目標はそのまま継続されて順調に事業が実施されてきています。
○文化財に関する調査及び研究の推進
 企画情報部では、『昭和期美術展覧会の研究 戦前編』を刊行しましたが、これは、昨年度刊行した目録 収載のデータを駆使し、当研究所ならびに他機関の若手研究者26名による史料の博捜的な収集とそれを踏ま えた緻密な研究論集です。また、『平等院鳳凰堂調査資料目録―カラー画像編―』は、企画情報部と保存修 復科学センターとの連携により、平等院鳳凰堂本尊の後壁画について、高精細デジタル撮影や蛍光X線分析 による顔料の光学的・科学的調査による成果です。
 国立博物館との統合の成果として求められている保存修復分野における一体的な取り組みに関しては、文 化財機構に所属する4博物館2研究所の保存修復担当研究職員による共同企画による研究会「文化財の保存 環境を考慮した博物館の省エネ化」を実施するとともに、継続的な連絡会を開催しており、今日的な喫緊の 課題に取り組んでいます。
 文化庁が実施しているキトラ・高松塚両古墳壁画の調査・保存・活用に関する技術的な協力は、当研究所 としても最重要課題として位置付けていますが、昨年度の高松塚古墳石室の解体とともに、キトラ古墳の図 様部分の壁画の取り外しが無事完了し、本年度も充分な成果を上げることができました。
○文化財の保存・修復に関する国際協力の推進
 文化遺産国際協力センターでは、アジア諸国を中心とした海外所在の文化遺産の保存・修復に関する協力 支援を継続的に実施してきていますが、本年度は、中国における8年間におよぶ龍門石窟や、4年にわたる 唐代陵墓石彫像の保存修復事業が共に完結しました。その他、イラク・アフガニスタン両国における現地で の協力事業は、紛争の激化などにより実施できませんでしたが、両国の専門家を日本に招聘し、人材養成や 技術移転を目的とした長期の研修を行うことで対応しました。また、新たにタジキスタンなどの中央アジア での協力事業も始めましたが、いずれもキトラ・高松塚古墳にも共通するアジアの壁画遺産の保存・修復と いう大きなテーマも有しています。
 このような動きは無形文化遺産部も同様で、近年の国際的な無形文化遺産保護の気運の高まりに対応し て、この分野での我が国の半世紀以上に及ぶ先進的な実績と経験を活かして、「アジア無形文化遺産保護研 究会」を開催するとともに、タイやモンゴル、韓国での研究交流を実施することができました。
○情報発信機能の強化
 当研究所の事業は、まだまだその存在や活動内容について広く知られているとは言い難い面があり、近年 広報・啓発活動を重視してきています。本年度は新たな試みとして、子供向けのパンフレットを作成し、近 隣の小・中学校へ配布し、ホームページ上での子供向けウェブ・サイトの試作などを実施しました。
 また、ホームページへのアクセス件数は140万件を超えていますが、本年度の傾向として、利用者のホー ムページでの滞在時間が伸び、かつ、ページをめくる回数が増えてきており、これまでの興味本位からじっ くりと利用する形態へと変化していることが知られます。
○地方公共団体への協力等による文化財保護の質的向上
 従来より、当研究所は、国の文化財行政を直接的に支える立場だけではなく、地方公共団体や公私立の博 物館・美術館、寺社、大学などの管理・所有する文化財保護に対する指導・助言、また、それらに関係する 担当者や学生の研修・教育に積極的に携わっていますが、その数も確実に増えてきています。
 今後とも、当研究所の活動に対し、皆様のより一層のご理解ご協力をお願い致します。

 平成21年(2009)5月

独立行政法人国立文化財機構
東 京 文 化 財 研 究 所
所 長   鈴  木  規  夫
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