序
日本近代美術への関心は、「明治百年」にさしかかる昭和四十年代から、加速度的な高まりを示し、調査と研究もこの頃から各地に新設され始めた公立の美術館博物館の活躍によって飛躍的に進展した。近年では海外においても美術館博物館、あるいは個人コレクションに収蔵されている日本近代の美術・工芸品に関する調査研究が急速に進み、出版や展覧会は国内外を問わず盛んである。このような日本近代美術への関心の新しい状況は、近代美術氏研究の基礎となるべき資料集成の必要性を一段と高めることとなった。
東京国立文化財研究所は、「日本近代美術の発達に関する明治後半期の基礎資料集成」と銘うった特別研究を昭和六十三年度から四ヶ年継続の特別研究として実施したが、これは、今述べた新しい状況を背景とする事業であった。その成果として、平成六年三月に明治期の主要な五つの美術団体展の出品目録をまとめた『明治期美術展覧会出品目録』、平成八年二月に明治期の内国勧業博覧会の出品目録をまとめた『内国勧業博覧会美術品出品目録』を刊行しているが、この度この二書に連環するものとして、幕末明治期に海外で開催された万国博覧会のなかから主要な九つの博覧会を選び、美術・工芸品に関わる部分をまとめた『明治期万国博覧会美術品出品目録』を刊行することになった。これによって特別研究の所期の目的は一応達成したことになる。 万国博覧会は嘉永四年(一八五一)のロンドン万国博覧会を始まりとしているが、万国博覧会は近代国家をめざす日本にとっても、西欧先進諸国の技術や知識を吸収し、国内産業を紹介して輸出拡大の端緒とするための重要な機会でもあった。欧米における日本美術品の蒐集は、この万国博覧会に刺激されるところが多大であったが、とりわけ工芸品は、明治期の万国博覧会への出品や輸出を機に収集されたものが多く、日本国内にある美術品のなかにも万国博覧会出品後、出品者の出身地に移送され収蔵されているものが少なくないという。明治期における万国博覧会出品目録の集成が博物館、美術館や近代日本美術研究者から期待される所以である。本書の刊行が、日本近代美術、産業、ジャポニズムなどの研究の進展に寄与することを願ってやまない。 因に本研究とその成果の公刊は、美術部第二研究室が担当となって進められてきたが、本書の刊行にいたるまでには、前二書の公刊の場合以上に、多くの機関や研究者の方々かた多大なご協力とご助力を賜った。心から感謝申し上げます。 目次
序
凡例 解題 収録万国博覧会開催一覧 万国博覧会美術品出品目録及び受賞目録 慶応三年(1867)パリ万国博覧会 A 出品目録(幕府出品)1 出品目録(商人出品)1 B 出品目録2 明治六年(1873)ウィーン万国博覧会 C 出品目録1 D 出品目録2 E 受賞目録 明治九年(1876)フィラデルフィア万国博覧会 F 出品目録1 G 出品目録2 H 受賞目録 明治十一(1878)パリ万国博覧会 I 出品目録 J 受賞目録 明治二十二年(1889)パリ万国博覧会 K 受賞目録 明治二十六年(1893)シカゴ・コロンブス万国博覧会 L 出品目録1 M 出品目録2 N 出品目録3 O 受賞目録 明治三十三年(1900)パリ万国博覧会 P 出品目録1 Q 出品目録2 R 受賞目録 明治三十七年(1904)セントルイス万国博覧会 S 出品目録 T 受賞目録 明治四十三年(1900)日英博覧会 U 出品目録 V 受賞目録 出品人及び製作人姓名・号名索引 姓名索引 個人名 その他 号名索引 海外博覧会主要資料所在一覧 |