

このたび東京文化財研究所主催の国際研究集会「“オリジナル”の行方―文化財アーカイブ構築のために」(2008年12月6~8日)の関連企画として、福田美蘭氏による《湖畔》を展示します。
気鋭の現代美術家である福田美蘭氏は古今東西の美術品を素材に作品を制作、その“オリジナル”イメージを揺さぶる活動で知られています。今回展示する《湖畔》は、明治の洋画家、黒田清輝の代表作《湖畔》をアレンジしたもので、この作品を通して福田氏は見なれた名画のイメージを一度くつがえし、再度新たなまなざしで原画に接することをうながしています。廊下をはさんで、向かいあうように飾られた黒田清輝の“オリジナル”とのコラボレーションをお楽しみいただければ幸いです。
なお、今回の国際研究集会のPRイメージとして使わせていただいた、福田氏の《冨嶽三十六景 神奈川沖浪裏》も同時に展示します。葛飾北斎の有名な浮世絵を左右反転させた同作品も、どうぞあわせてご鑑賞ください。
作家のことば
この絵はやっぱり、見る側のイメージがもう固定してしまってますよね。このサイズ、このアングルだぞって。本来、絵画は見る人がその人なりに感情移入して絵の世界に遊ぶという感覚が大切なのに、相手があんまり名画すぎると先入観に縛られて、自分なりの見方とか感覚とか持つのがむつかしくなってしまう。でも私はこの原画を見ているとやっぱりこう、フワーッと広がっている感じがするんですよ。山の上のところ、黒田が稜線を画面ぎりぎりでトリミングしたり、奥さんの姿を上半身で切ったりしてるから、見た目より画面が広がってゆく。私が《湖畔》を拡大したのはパロディーということではなくて、私の作品を媒介装置として通過した上でもう一度原画自体を鑑賞した時に新しい見方で見直してもらえたら、先入観なしに名画の価値を再発見してもらえたら嬉しい。たとえば人物の向こう側を私は拡大したのだけれど、逆にその手前はどうなっているのか。このひと足を組んでるのかな、奥さんを見ていた黒田はどの辺に立っていたのかなという、そういうことまでイメージをふくらませながら、さて、これから色んな名画を見ていきましょう。
―「福田美蘭 名画をわれらに!」
(『芸術新潮』596、1999年8月)より
福田美蘭(ふくだ みらん)略歴
1963 | 東京都に生まれる |
1985 | 東京藝術大学美術学部絵画科を卒業 |
1987 | 東京藝術大学大学院美術研究科を修了 |
「第18回現代日本美術展」(東京都美術館)で佳作賞を受賞 | |
1988 | 「第17回日本国際美術展」(東京都美術館)で富山県立近代美術館賞を受賞 |
1989 | 「第32回安井賞展」西武美術館(東京)で安井賞を受賞 |
1991 | 「第7回インド・トリエンナーレ」ラリット・カラ・アカデミー(ニューデリー)で金賞を受賞 |
1992 | 「ハラ・ドキュメンツ―福田美蘭」原美術館(東京) |
「第21回現代日本美術展」(東京都美術館)で群馬県立近代美術館賞を受賞 | |
1994 | 「VOCA展’94」上野の森美術館(東京)でVOCA賞を受賞 |
1996 | 「フィリップモリス アートアワード1996最終審査展」原宿クエストホール(東京)で優秀賞を受賞 |
1997 | 「VOCA展’97」上野の森美術館(東京)で選考委員特別賞を受賞 |
1999 | 「福田美蘭展 New Works:Prints」CCGA現代グラフィックアートセンター(福島) |
「福田美蘭展 Retrospective」国立国際美術館(大阪) | |
2000 | 「たくみなたくらみ 福田美蘭と墨田の伝統工芸職人による」すみだリバーサイドホール・ギャラリー(東京) |
2001 | 「福田繁雄展 福田美蘭展」世田谷美術館(東京) |
2002 | 「有隣荘・福田美蘭・大原美術館」大原美術館(岡山) |
2005 | 「福田美蘭の現在(ルビ:いま)―富士は日本一の山」池田20世紀美術館(静岡) |