天皇 / 藤原良房 / 謎の人物(伴善男か)
子供のけんか
原寸で10~13cmの人物を等身大に拡大
(撮影:城野誠治) |
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「伴大納言絵巻」について この絵巻は平安時代前期に実際に起きた応天門の変にもとづく物語を描いている。12世紀後半、宮廷絵師による制作と推定されている。
文献史料によると、貞観八(866)年閏三月十日の夜、応天門が炎上し、原因は放火によるものと見られたが、犯人不明のまま八月となって、ある役人が、時の大納言伴善男(とものよしお)とその一味の仕業と告発する。伴善男は取調べを受けるが、犯人とは断定されないなか、八月下旬に伴善男の家来が告発者の女子を殺害するという事件が起き、この家来が捕らえられる。取調べによってこの家来の罪が確定するとともに、伴善男の容疑も固まっていき、伴善男とその一味は伊豆国ほかに遠流されたと伝える。
絵巻では、伴善男が時の左大臣源信(みなもとのまこと)の地位を狙って応天門に放火した上、左大臣の仕業と天皇に讒言するが、太政大臣藤原良房は天皇に十分な調査と慎重な処分を行うよう諫言し、その結果、左大臣の無実が判明して釈放される。真相不明のまま時は過ぎたが、事件は意外なところから解明に向かう。伴善男の家来の子供と、放火の現場を目撃した舎人(とねり)の子供とのけんかに、伴善男の家来が介入し、自分の子供に加勢して舎人の子供に暴行を加えたため、これを恨んだ舎人が真実を告発して、伴善男の悪事が発覚し、捕らえられるのである。
真相解明の端緒となったけんかの場面は、組み合うふたりの子供、飛び出す父親、自分の子供に加勢して相手の子供を蹴る父親と蹴飛ばされる子供、母親に連れ戻される子供を、円環するように異時同図法で描き、二次元である絵画に時間軸を取り入れた表現として著名である。動感あふれる筆さばきとけんかを見る人々の表情の活写も見どころとなっている。
冒頭の応天門炎上の場面は卓抜な火炎の表現で名高い。炎と煙の動きをあらわす筆力は、群像表現にも活かされて画面に動きを生み出すなど、この絵巻全体を支えている。
(2006.10.11 企画情報部・山梨絵美子)
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