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2月17日
「作家資料はどう生き続けるか――美術アーカイブズの「残す」技術と「活かす」実践」
近年、美術館や公文書館、研究機関図書室などにおいて、作家資料の体系的な整理・公開が大きく進展している。作品そのものだけでなく、創作の背景や思考のプロセス、人的ネットワークまで含めて作家活動を再評価するという美術史における基盤的な取り組みが、こうした機関がそれぞれの立場から進めるアーカイブズ公開の実践と、展覧会やデジタルアーカイブの公開とが有機的に連携することで、社会へ広く開かれたかたちで展開されつつある。
本研究会では、望月桂(1886-1975)と松澤宥(1922-2006)という二人の人物をめぐるアーカイブ構築の実践を取り上げ、それぞれの現場でのプロセスをご報告いただく。資料の保存・整理・記述といった基盤的作業から、展覧会やデジタルアーカイブによる再提示・再活用まで、資料を「残す」ことと「活かす」ことの両面から、美術アーカイブズが今後どのように歴史的研究資料として継承され得るのか、また社会的基盤としてどのような可能性を拓きうるのかを考察する場としたい。
報告(1):塩原理絵子(安曇野市教育委員会) 「望月桂資料調査の位置付けとこれからの展望」
安曇野市ではこれまでにも市の博物館、美術館、文書館の資料収集方針に沿って様々な資料調査・収集を行い、成果として企画展や報告書作成を行ってきた。地域に潜在している資料群を、市民の財産として半永久的に保管するには、広く市民が知り、アクセスしやすく、活用しやすい形にして行くことが求められる。ただ、各施設の人員体制、収蔵環境も異なるため、実情にあわせて地域の研究者と協働し、所蔵者との信頼関係を築きながら、何をどのように保管、公開するかを決定している。今回は、望月桂調査団の活動と連携しながら、望月家に保管されていた資料群を美術館、文書館で保管するまでのプロセスを振り返り、今後の展望について考えてみたい
報告(2):谷口英理(国立アートリサーチセンター)・山永尚美(東京文化財研究所) 「「望月桂関係資料」の受入れ・編成・公開に関する中間報告」
望月桂調査団(2022年~)は、安曇野市に所在する望月桂旧宅に遺された作品および記録群の悉皆調査を起点に活動してきた。調査対象の大部分は、2024年初頭に、作品類は安曇野市美術館、記録群は安曇野市文書館へと分蔵の形で寄託され、後者は「望月桂関係資料」として登録・公開されている。本発表では、この「望月桂関係資料」を対象に、受入れおよび現在進行中の編成作業において選択した方法の意義を、中間報告として提示する。現在公開されている受入れリストを基礎に、調査団は記述標準に基づくファインディングエイドの作成を進めており、その作成方針の特殊性と意義、ならびに今後予定しているファインディングエイドや一部記録類のデジタル画像の公開・活用の展望についても論じる。
報告(3):槌賀基範(県立長野図書館) 「信州の「地域デジタルアーカイブ」としての信州デジタルコモンズ」
2010年、「地域アイデンティティの再認識と地域づくり」を基本方針とした「長野県デジタルアーカイブ推進事業」“信州デジくら”が開設された。その後コンテンツ作成、システム運用の予算削減により存続が危ぶまれる事態となった。2016年、長野県内4機関により開始された「信州
知の連携フォーラム」で「信州
知のプラットフォーム構想」が提案され、「信州デジくら」は、2020年に当館が引き継ぐ形で、「知の共有地(=コモンズ)」として再スタートすることとなった。「コモンズ」の名のとおり、運用規程では、図書館、博物館、美術館等の公的施設の所蔵資料だけでなく、「個人・団体が所蔵する情報資源で、長野県に関する調査研究の対象となるものや地域の記録を後世に伝えることに資するもの」を登録・公開できることとしている。こうした「信州の地域デジタルアーカイブ」の考え方、登録の仕組みや今後の見通し等について説明する。
報告(4):橘川英規(東京文化財研究所) 「資料をめぐる多層的な循環――松澤宥旧蔵資料の継承と活用のダイナミズム」
松澤宥が生成・保存し続けた資料群は、現在、東文研や美術館・図書館等の公的機関、あるいは有志グループやギャラリーが多層的に関わるダイナミズムの中にある。各主体がそれぞれの文脈で資料を再評価し活用することで、その継承に向けた営みが有機的に並行して展開されている。本報告では、松澤宥旧蔵資料をめぐって諸活動がゆるやかに連動する現況を俯瞰し、研究支援を本旨とする東京文化財研究所資料閲覧室を、それらの活動の結節点に据えて、現場の視点から資料提供のあり方を展望する。研究者や学芸員をコアユーザーとする専門的視座から、資料を歴史的研究資料として機能させるための仕組みを考察し、複数の場を横断して展開される資料継承の今日的な位相を提示する。
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