7月17日
呉景欣 [ウー・ジンシン](米・ラトガース大学アソシエート・ティーチング・プロフェッサー、東京文化財研究所来訪研究員)
「近代日本画家の台湾における活動と画業の発展-木下静涯と同時代の日本画家たちの渡台前後の作品を中心に」
1895年に台湾が日本の植民地になると、日本画家が台湾を訪ねることが増えた。彼らの台湾における経験は、自らの絵画に新たな刺激と影響を与えた。1918年から1945年まで台湾で過ごした木下静涯は、日本画家の中でも最も長く台湾に住み、現地の美術活動と非常に深い関わりを持った。静涯は村瀬玉田画塾や竹内栖鳳の竹杖会などで絵を学び、渡台後、台湾日本画協会を設立し、台湾美術展覧会の審査員を務めた。本発表では、四条派における静涯の画業の背景と創作活動、渡台後の画題や画風における変化について考察する。また近年発見された静涯の四条派を学んだ時期の画稿、粉本を紹介し、最近公開された郷原古統の『南薫綽約』を検討し、同時代の日本画家たちが植民地政策や台湾の自然環境などにあわせて変化しながら、日本画のスタイルを継承し、変容した過程についても考察する。
森川もなみ(山梨県立美術館学芸員)
「三水公平の南方従軍スケッチ―戦時下における日本の占領地・植民地の記録」
本発表では、戦前戦中期に独立美術協会や美術文化協会に出品した油彩画家・三水公平(1904~1997)による従軍スケッチを紹介する。これまで三水が戦時期に描いた現存作品はほとんど確認されておらず、画業の全貌は明らかにされていないが、発表者は1941(昭和16)年から1943(昭和18)年に三水が描いた700点以上のスケッチを遺族宅にて調査する機会を得た。スケッチはインドネシアを中心に、シンガポール、台湾、満洲などで制作され、風景、動植物、人物など多様な主題を含む。本資料群は三水の画業を再評価する上で重要であると同時に、戦時下の日本人画家の活動記録として、また日本の占領地の様子を視覚的に伝える歴史資料としての価値を有すると考えられる。本発表を通じてスケッチの存在を共有し、今後の研究への一助となれば幸いである。
|