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研究会「アート・アーカイヴの諸相」
日時:2014年2月25日(火)
場所:東京文化財研究所 地階セミナー室

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開催趣旨

 研究会「アート・アーカイヴの諸相」を開催します。

 「アーカイヴ」ということばは、ふたつの意味で用いられます。近現代美術史の研究にあてはめると、ひとつは、スケッチブックや日記や書簡など自筆資料、展覧会絵葉書や一枚物の目録や同人誌的な雑誌などの少部数しか作成されなかった印刷物、失われた作品を記録し作家の風貌を伝える写真や音声記録などのように、ともすれば失われやすい資料をさすことばとして使われます。もうひとつは、そのような資料を集積する「場所」を表わし、アーカイヴを集積する機関としての「文書館」のことであったり、また図書館のなかに設けられた特定作家の個人文庫などにも用いられることもあります。

 今回の研究会は、比較的近い時代の「アート・アーカイヴ」をテーマとして企画しました。第一部として、「アーカイヴ」を活用し、またその構築に携わっている美術史家、アーキヴィスト、ライブラリアンが個別発表を行います。それぞれの立場からアメリカや日本の個別の「アーカイヴ」を紹介し、またそこから見えてくる「アーカイヴ」にまつわる思考、方法論などについて考察するものです。これらの発表を踏まえ、第二部においては、おも に日本における戦後美術に関する「アーカイヴ」の現状を確認しながら、そのあり方、広がり、可能性について、ディスカッションを行いたいと考えています。

 関心をお持ちの方、関係機関の方のご参加を心よりお待ちしております。




日程、参加申し込み方法

日時:2014年2月25日(火) 14:00~17:00
各発表30分、質疑応答、ディスカッション(全体で3時間ほどを予定)
場所:東京文化財研究所 地階セミナー室

*聴講者数を把握するために、事前申込制とします。
聴講をご希望する方は、「2月25日研究会参加」と明記の上、お名前(読みも併せてお願いします)・ご所属・連絡先(ご住所・電話番号)を添えて、メール(kjkenkyukai@tobunken.go.jp)もしくはファックス (03-3823-2371)までお申込みください。
不明な点につきましては、下記問い合わせ先までお尋ねください。なお参加費は無料です。
    

問い合わせ先:東京文化財研究所企画情報部

〒110-8713 東京都台東区上野公園13-43
 塩谷純(tel 03-3823-4827)
 綿田稔(tel 03-3823-2987)
 橘川英規(tel 03-3823-2264)




プログラム

第1部

1)加治屋健司氏「美術アーカイヴのなかの美術史」

アメリカ美術史の研究者として利用してきたアメリカの美術アーカイヴ(スミソニアン協会のアメリカ美術アーカイヴ、ニューヨーク近代美術館アーカイヴ、ゲッティ研究所特別コレクション等)を紹介しつつ、アメリカの現代美術史研究におけるアーカイヴ資料の役割について考察する。そして、代表 を務める日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴの活動を紹介しつつ、戦後日本美術研究において必要とされる美術アーカイヴについて、運営者と 利用者の双方の視点から検討する。

 

2)上崎千氏「アーカイヴと前衛―表現の非永続性 ephemerality と資料体」

前衛における芸術のアーカイヴ的な在り方(芸術作品がアーカイヴを模倣すること)について。かつての前衛はいま、それぞれが過去の特定の出来事 event と分かち難く結びついている。作品の生を出来事の構成要素(出来事内存在)として捉えるならば、そのような生、その表現、その「思考」もまた出来事と同じく非永続的 ephemeral であり、始まった以上は終わるべきものとして運命づけられるのだろうか。また、この問いの延長線上でいま、「エフェメラ」というこの奇妙な語彙によって名指されている品々の生が、作品そのものではなく、作品の生(そして死)に隣接する存在(アーカイヴ)であることについて。前衛芸術を扱うデータ ベースの設計・構築プロセスや、各種資料体の物理的編成プロセスに触れつつ、アーカイヴを形成する思考/アーカイヴに内在する思考としてのいわば 「アーカイヴ的思考」について、とりわけそのような「思考」の未来について考察する。

 

3)橘川英規「中村宏氏作成ノートに残された記録と資料―観光芸術研究所、東京芸術柱展を中心に」

東京文化財研究所が所蔵している中村宏氏作成ノートは、同氏が1965年から68年まで使用したと思われる前衛美術会の会務、活動を記録したノートである。同会が主催した東京芸術柱展、東京芸術会議展などに関する資料(会議議事録、出品規定、展示風景写真など)が時系列で残されているほか、観光芸術研究所に関する資料も一部収録されている。本発表ではこのノートが作成された時代背景に即して、収録されている記録・資料の発生を追いながら、研究資源としての意義の一端を紹介する。

 
第2部ディスカッション



発表者略歴

加治屋健司(かじや・けんじ、広島市立大学芸術学部准教授)
1971年生まれ。東京大学教養学部卒業。ニューヨーク大学大学院美術研究所博士課程修了。PhD(美術史)。スミソニアンアメリカ美術館研究員 を経て、2007年より現職。日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ代表。2012年コロンビア大学美術史考古学部客員研究員。博士論文="Color Field Painting in the Cultural Context of America"、共編著=From Postwar to Postmodern, Art in Japan 1945-1989 (New York: Museum of Modern Art, 2012)、『中原佑介美術批評選集』全12巻(現代企画室+BankART出版、2011年―)。訳書=イヴ=アラン・ボワ、ロザリンド・クラウス『ア ンフォルム 無形なものの事典』(共訳、月曜社、2011 年)。
 
上崎千(うえさき・せん、慶應義塾大学アート・センター所員)
1974年生まれ。多摩美術大学大学院美術研究科修了。2007 年より現職。草月アートセンター資料(c.1958-71年)ほか各種資料体の編成プロセスを通して、戦後日本の前衛芸術を対象としたアーカイヴの設計・ 構築に従事している。主な論考=「岡崎乾二郎のディプティック」『SAP Journal』10号(2003年3月)、「印刷物=印刷された問題:ロバート・スミッソンの眺望」『アイデア』320号(2007年1月)、論集 『アーカイヴ的思考のために』(慶應義塾大学アート・センター、2010年)、「ペイヴメント:舗装道路と印刷された問題」『路上』(東京国立近代美術館、2011年)、「記載の場所を巡って:アーカイヴと横尾忠則」『ユリイカ』618号(2012年11月)、「そして穴の底では……」『ドキュメント:14の夕べ』(青幻舎、2013年)など。
 
橘川英規(きっかわ・ひでき、東京文化財研究所アソシエイトフェロー、司書)
1974年生まれ。東京造形大学デザイン学部卒業。東京都現代美術館美術図書室専務的非常勤職員(司書)、国立新美術館(設立準備室)情報資料室研究補佐員などを経て2012年から東京文化財研究所企画情報部アソシエイトフェロー(司書)。論考=「美術館図書室と美術図書館連絡会 (ALC)」(『MLA連携の現状・課題・将来』勉誠出版、2010年)。最近の編纂物=「独立美術協会年表」(『独立美術協会80年史』独立美術協会、2012年)、「牧野邦夫文献目録」(『牧野邦夫画集―写実の系譜』求龍堂、2013年)、「宮芳平文献目録」(『宮芳平画文集』求龍堂、2013年)など。



 
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