ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

写真4-46:取り外されたボイラー部分の展示状況された2両のうちの1両である(写真4-45)。国内で動態保存されている蒸気機関車の中では最も古い車両にあたる。12号機関車は、鉄道院、尾西鉄道、名古屋鉄道へと譲渡され、昭和28年(1953)まで使用され続けた。昭和38年(1963)に車両の解体が決定したが、保存運動がおこり、犬山ラインパーク(現在の日本モンキーパーク)にて静態保存され、昭和40年(1965)からは博物館明治村にて静態保存された。昭和47年(1972)に12号機関車を動態保存させるために整備をはじめ、昭和49年(1974)から動態保存を開始した。昭和60年(1985)まで動態保存されていたが、ボイラを構成する鉄板の減肉量が使用限界をむかえ、ボイラを新造することになった。【保存の概要】既存のボイラは、イギリスのSharp , Stewart & Co .製である。明治7年頃に製造され、材料や工作などは、当時の姿をよく留めており、技術史上貴重なものであった。新造されるボイラは、溶接構造によるもので、構造、材料などは既存のボイラとは異なるため、取り外されるボイラの価値を考慮すると、明治村内で保存展示することが産業遺産の保存としてふさわしいと判断された。ただし、保存されたボイラは、展示スペースの問題から屋外展示されることになった(写真4-46)。【所見】昭和60年に近代化遺産の材料や技術的な価値に着目し、保存措置を講じた先見性は高く評価することができる。12号機関車は現在でも動態保存されており、使用限界を迎えた部品の取り扱いを考える上でも参考になる。ただし、展示スペースの問題などもあり、露天での展示保存になったため、錆、汚れに対する除去作業が追いついていない状況である。そのため、先人達の材料・技術的な価値を見出した先見性を末長く伝えていくためにも、屋根などを設置し、保存環境を改善するべきである。特に、屋外展示されている鉄構造物において、屋根の設置の有無が保存状態に大きく影響することが、多くの事例で証明されていることからも、効果は大きいと考える。(4)施工技術の保存-揖斐川橋梁の「合番」【調査の経緯】本橋の塗装工事では、塗膜・母材の状態に合わせてケレン方法を変える手法が取られている。塗膜の劣化や母材の腐食が進行している部分に対しては、1種ケレンが採用されブラストによる素地調整が実施された。ブラスト実施後に腐食や破損程度が明確に確認できることから、改めて破損状況の調査が実施され、今後の維持管理におけるデータ収集が行われた。さらに、素地調整後の母材の表面には、これまで塗膜により確認することが難しかった製造会社を表すロールマークの他に、工場内などで仮組みされた際に作業者によって刻まれたと考えられる記号や番号などが数多く発見された。本橋の現場では、これらの記号や番号を「合番(アイバン)」と称し、素地調整された範囲内で合番の痕跡調査が実施された。【調査の概要】発見された合番は、付け方により、ポンチで文字を打刻する方法とケガキの刻み込みによる方法の2種類が確認された(表4-6)。確認された合番の特徴を以下にまとめる。1各点部の固有番号(ピンの刻印等)を基準に振付けられ特定位置を示す。2同仕様の部材が複数ある場合に区分する。3上下方向を示す。4取付部材を示す。(推測)表4-6:発見された主な合番(提供:(株)文化財保存計画協会)目的及び記号例付け方場所1各点部固有の番号を基準に特定位置を示すF1、F2、…F12ポンチ上下弦材、斜材B、…M(ピン刻印と概ね一致)ポンチ斜材2同一部材が複数ある場合の区分B1、B2、…(第5径間上流)ポンチ上下弦材F1、F2、…(第4径間上流)A1、A2、…(第5径間下流)E1、E2、…(第4径間下流)E10XF9X等ポンチ床組側の上下弦材3上下取付方向を示すE1T(上)、E1B(下)ポンチ斜材4取付部材を示す(推測)Ⅸ-ⅩⅢ、Ⅷ-Ⅱ等ケガキレーシングバー5向きや順番等を示す(推測)△、×、⊥等ケガキ不特定(ダイアフラム、F(上流)E(下流)F11F11X F10E1TE1CF10X板材切断面等)DE3BF11XE3F12XE2BE2|×-×|||←大垣E1B||-×||瑞穂(安八)→E1EB図4-7:第4径間の合番の概略(提供:(株)文化財保存計画協会)F9E2TE2EF9XE3TFE3G97