ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

された箇所もあった。また、作業上、鉸鋲箇所の近くで生リベットを加熱する必要があったため、E判定のリベットが集中している箇所を中心に取替られた(写真4-37,38,39,40)。最終的に取替られたリベットは108本となり、鉸鋲後はリベットの状態が検査された(表4-4)。写真4-38:長さ調整後のリベット(板厚の状態に合わせて軸の長さが調整されている)(出典:(公財)文化財建造物保存技術協会(2011)、『重要文化財旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)保存修理工事報告書』、p.(写真)34、(公財)筑後川昇開橋観光財団。)【所見】腐食したリベットは、高力ボルトに置き換えることなく、リベットの損傷度に合わせて修復された。リベットを用いた修復により、建設当初の姿や施工技術が保存され、建設技術の継承にも貢献できている。現場を担当した修理技術者への聞き取りでは、木造建造物で行われている『和釘』を用いた修復の考え方を、『リベット』に置き換え反映させているとのことだった。高力ボルトに置き換えられることで、施工費用、施工期間は削減されるが、文化財建造物にとって、建設当時の姿、技術を保存・継承できる修復方法には大きな価値があると言える。写真4-39:取り外されたリベット(軸部分にも腐食が見られる)(出典:(公財)文化財建造物保存技術協会(2011)、『重要文化財旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)保存修理工事報告書』、p.(写真)36、(公財)筑後川昇開橋観光財団。)(2)リベット接合への復旧工事-長浜大橋竣工:昭和10年(1935)構造形式:鋼製跳開橋、橋長232.3m、幅員6.6m、鋼製高欄付、親柱、袖高欄及び袖柱附属、鋼製鈑桁二基(鋼製塔柱及び平衡桁を含む)、鋼製ワーレントラス五基、鉄筋コンクリート造橋脚六基、鉄筋コンクリート造橋台二基、跳開装置一式(木造上屋を含む)よりなる設計:増田淳重要文化財指定:平成26年(2014)12月10日指定基準:(二)技術的に優秀なもの、(三)歴史的価値の高いもの所在地:愛媛県大洲市長浜町沖浦、長浜所有者:愛媛県、大洲市写真4-40:リベット打ちの試験施工の状況(上の道具がリベットガン、下が空気当て盤)(出典:(公財)文化財建造物保存技術協会(2011)、『重要文化財旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)保存修理工事報告書』、p.(写真)35、(公財)筑後川昇開橋観光財団。)表4-4:リベットの除去から検査までの主な作業内容工程作業内容リベットの除去1取り替え対象のリベット頭部をグラインダーなどの工具で削り落とす2リベット胴部はアトラードリルで穿孔し、タガネとハンマーを用いて除去3リベット孔の状態を確認し、鉸鋲に必要となる内径までヤスリなどで削り込む仮ボルト取付1リベットを取り除いた孔に、鉸鋲までの間、仮ボルトで締め付ける2仮ボルトには番付けし、数量を管理鉸鋲1リベット孔に合わせて19mmと22mmサイズの丸鋲を選択2母材の状態に合わせてリベットの軸の長さを切断調整3鉸鋲検査1目視、打音、超音波探傷検査などを実施【保存修理工事の経緯】長浜大橋(写真4-41)は、立地が海岸に近いこともあり、塩害による塗膜の劣化、部材の腐食が発生していた。そのため、腐食したリベットは、補修工事のたびに高力ボルトへと置き換えられていた。当初の計画では、腐食したリベットを従来通り高力ボルトに置き換える形で補修する予定であったが、リベット施工の可能性を検討した結果(表4-5)、歴史的価値を保持していくためにはリベットで施工することが望ましいと結論づけられ、施工可能な箇所は全てリベットへと取替を実施する方針がたてられた。写真4-41:長浜大橋の全景(橋中央の構造部が可動桁部分)95