ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

写真4-34:補剛材が設置されたアーチリブ部(塗装が濃い部分に補剛材が設置された)【補修の概要】本橋のタイドアーチ構造は、4箇所の支承部(固定支承1箇所、可動支承3箇所)によって支えられているが、橋軸方向の地震力を受けると、固定支承部に力が集中してしまうため、地震発生時にだけ作用する固定支承を新設し、地震力を受ける固定支承を1箇所から2箇所へと変更した(写真4-33)(図4-6)。ただし、歴史的価値の高い既存の支承を取替るのではなく、地震時に本橋にかかる水平力を受ける支承を新たに設置し、常時と地震時で支承の機能を分離した補強が実施された。新設された支承部の意匠は、既存の支承部の意匠とは異なる形状のものとし、後補部材であることが明確に示せるよう配慮されている。支承部の新設の他には、曲げ耐力が不足しているアーチリブ内部から補剛材を新設し、補強が実施された(写真4-34)。補剛材の接合には、高力ボルトが用いられ、接合方法の違いからも補剛材が設置されていることを示している。その他には、落橋防止対策として橋台部やゲルバー部の変更、新設が実施された。【所見】永代橋はレベル2の地震動は満たしていなかったが、震災復興橋梁として建設されたこともあり、レベル1の地震動(耐用年数中に受ける可能性の高い地震動)は十分に満たす耐震性を有していた。そのため、既存の優れた構造システムも保存しつつ、大地震発生時に機能する補強システムが導入されている。永代橋に新設された部材は、最小限の介入に留めるよう配慮され、地震時のみに限定的に機能するなど、既存の構造システムを尊重した補強が実施されている。4.4.建設当初の技術保存(1)リベットの損傷分類-旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)【保存修理工事の経緯】本橋(写真4-35)では、今回の保存修理工事前に実施されたリベット周囲の溶接補修により、母材やリベットの一部が必要以上に溶けていた。その熱による影響を受けた部材から腐食が進行している状況が確認された。また、鉄道橋から歩道橋へと改変される際に新設された床版から漏水が発生し、鈑桁内部のガセットプレート廻りなどで腐食が進行していた。【保存修理工事の概要】そこで本橋のリベットは、損傷具合に合わせてA ? Eまでの5段階に分類された(写真4-36)、(表4-3)。損傷調査は、目視調査と打音検査で行われ、損傷判断の分類では、CまたはD程度まで進行しているものが多かった。リベットの腐食の深度については、超音波探傷装置を用いて一部の部材で調査が実施された。調査の結果、目視調査でD程度までリベットが損傷しているものは、内部にまで損傷が及んでいる反応が測定機器からも確認された。そのため、早急に対応が必要と判断された損傷分類Eのリベットが取替対象となった。ただし、損傷リベットの鉸鋲作業が現場施工ではなく、工場などで施工されていた場合には、作業スペースや専用工具の問題から取替ることができないと判断写真4-35:旧筑後川橋梁の全景写真4-36:損傷別に分類されたリベット(出典:(公財)文化財建造物保存技術協会(2011)、『重要文化財旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)保存修理工事報告書』、p.71、(公財)筑後川昇開橋観光財団。)表4-3:リベットの損傷判断の分類分類状態A健全なもの、塗膜にも劣化が見られないものリベットの頭部と鋼材との取り合いで発錆が見られるもBの。劣化が初期段階のもの錆による影響が取り合い部分から頭部まで達し、塗膜も剥Cがれつつあるもの塗膜が亀甲状に割れ、リベット内部で腐食が進行しているDと判るもの塗膜が完全に剥がれ、リベット頭部にも腐食が深く進行しEているもの写真4-37:長さ調整前のリベット(板厚の状態がそれぞれ異なるため、調整用に軸が長めに制作されている)(出典:(公財)文化財建造物保存技術協会(2011)、『重要文化財旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)保存修理工事報告書』、p.(写真)34、(公財)筑後川昇開橋観光財団。)94第6章鉄構造物の保存と修復に関する事例集