ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

以降は、道路橋へ転用され、現在に至っている。道路橋への転用に伴い、床版の設置など一部が改変されたが、当初の部材は継続使用され続けてきた。継続的な維持管理により建設から100年以上が経過しているにも関わらず上部構造物の多くは健全な状態を保っている。しかし、風通しの悪い両岸支承部下弦材にて、雨水の滞水による広範囲な腐食が発生し、部材は大きく減肉し、穴があくほど腐食が進行している箇所もあった。【保存修理工事の概要】支承部の腐食は、部材内部に流れ込んだ雨水などが大きな要因であるが、特に両岸の支承部では、部材の取付きの関係で、内部に溜まった水の排水穴が、下部材面から数cm上の位置に設けられていたため、滞水状態が長期間続く環境であった。そのため、ポリマーセメントモルタルを使用して、排水穴の高さまで下部面を嵩上げし、可能な限り内部に滞水させないように環境改善が実施された。また、本橋で使用されている材料は、錬鉄が用いられており、腐食箇所の補修に溶接による補修方法を用いることができなかった。そのため、直接的な断面欠損の補強(当板など)ではなく、剛性を補強する意味で補剛材を設置する補強案が検討された。検討の結果、バットレス状の補強部材が両岸の支承部側面内側の計4箇所に新設された(写真4-29,30)。また、腐食している部材に対しては、錆の除去と再塗装のみが実施された(写真4 - 3 1)。指定基準:(一)意匠的に優秀なもの、(二)技術的に優秀なもの所在地:東京都中央区新川、江東区佐賀所有者:東京都【補修の経緯】本橋は隅田川に架かる3橋の重要文化財のうちの1橋であり、関東大震災によって被害を受けた東京の復興事業として架設された橋である(写真4-32)。また、支間長が100mを超す道路橋としては、国内で初めての橋であり、歴史的・技術的にも価値が高い。本橋を所有する東京都では、平成21年(2009)3月に策定した「橋梁の管理に関する中長期計画」に基づき、橋梁の長寿命化に取り組んでいる。この計画は、これまでの維持管理を通して蓄積されたデータを基に、今後の劣化状況を予測し、深刻な損傷や劣化が発生する前に必要な補修対策を講じ、対策後100年の延命を目標にした予防保全型の管理計画である。都が管理する橋梁を4つに分類(1将来に貴重な遺産として残すべき重要な橋梁、2橋梁の長さが100m以上の橋梁、3跨線・跨道橋、4主要幹線橋)し、長寿命化に向けた工事が実施されている。本橋は分類1に該当し、構造診断の結果、レベル2の地震動(現在から将来にわたって当該地点で考えられる最大級の強さの地震動)に対しては、基準を満たすだけの耐震性がないこと明らかになったため、耐震補強工事が実施された。【所見】本修理では、部材の劣化により構造躯体のどの部位に構造的な弱点が生じているかを調査・特定していくことで、必要最小限の介入による補強が実現した。構造体ごとに構造システムを十分に検討することで、最終的に多くの部材を保存することが可能になった。(4)機能分離型の補強-永代橋竣工:大正15年(1926)構造形式:鋼製三径間カンチレバー式タイドアーチ橋、橋長184.7m、幅員25.6m、鉄筋コンクリート造橋脚2基及び鉄筋コンクリート造橋台2基を含む設計:内務省復興局土木部長太田圓三ら重要文化財指定:平成19年(2007)6月18日写真4-33:支承部(内側の2基が新設の支承部)補強前可動支承固定支承可動支承可動支承A1補強1(支承の設置)可動支承A1P1固定支承P1地震時P2可動支承固定支承P2A2可動支承A2補強2(アーチリブ)写真4-32:永代橋全景可動支承固定支承固定支承可動支承A1 P1 P2 A2図4-6:永代橋で実施された補強工事(参考:紅林章央(2017)、「国重要文化財の永代橋、清洲橋の長寿命化」、一般社団法人日本建設機械施工協会編、『建設機械施工Vol.69』、p.43。)93