ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

写真4-14:床版からの漏水によって腐食が見られる(提供:(公財)文化財建造物保存技術協会)写真4-15:支承部直上に設置されている樋は竪樋を延長し、樋の途中で曲げて支承部に排水が流れ込まないようにしている床版に降り注ぐ雨水を排水するため、排水口も設置されていたが、排水口の竪樋が短かったため、鈑桁の腹板(ウェブ)や下フランジ、橋脚などに竪樋を通って集水された雨水が降り注ぐ状態となっていた。さらに、本橋が海岸に近い立地であったため、飛来した塩化物が構造体に付着し、下部構造物に顕著な腐食が見られた。竪樋に起因する腐食の他には、コンクリート床版からの漏水により、床版直下の部材に腐食が見られた(写真4-14)。【保存修理工事の概要】既存の短い竪樋に新たに角樋を付け足し、下部構造部に排水が降り注がない長さへと改善された(写真4-15)。床版からの漏水に対しては、鈑桁部の内側に仮設の雨樋を設置し、漏水時の排水対策を施した。樋の設置の他に、床版からの漏水を防止するために目地部にシールも施された。【所見】本橋では、雨水に起因する腐食に対して設備改善による対策が取られた。屋外に立地する鉄構造物の保存環境を整えることは非常に難しいが、腐食を引き起こす水の浸入経路に着目すれば、制御・抑制できる可能性は高い。(5)塗装の選択-鉄道総合技術研究所・高速道路総合技術研究所近年、文化財指定されている橋梁の保存修理工事においても、既存の塗装仕様からふっ素樹脂塗料を用いた塗装仕様へと塗装のLCCが考慮され仕様変更されているものが少なくない。そうした傾向が見られる中、多くの鉄道橋を維持管理しているJRが参照している技術マニュアルである『鋼構造物塗装設計施工指針』(以下、『塗装指針』とする。)、ふっ素樹脂塗料を用いた塗装仕様の導入は見送られている。一方、高速道路橋を管理するNEXCOでは、ふっ素樹脂塗料を用いた塗装仕様を積極的に導入している。このように鉄道橋と道路橋では、使用されている塗料が異なっているため、各研究所にふっ素樹脂塗料を用いた塗装仕様の導入に関する考え方について聞き取り調査を実施した。【『塗装指針』の塗装に対する考え方】『塗装指針』では、腐食の程度と構造物の安全性との関係が十分に解明されていないことを重く受け止め、鋼材を腐食させないことに重点が置かれている。そのため、塗膜の劣化で塗り替え時期を判断するのではなく、鋼材の腐食具合によって塗り替えの必要性が判断されている。ただし、本州四国連絡橋などの長大橋では、腐食が確認されてから塗替えが完了するまで非常に長期に及ぶ可能性があるため、塗膜の耐久性の指標にできる。そのため、塗膜の減耗程度から塗り替え時期を判定することは有効な方法と判断されている。現在使用されている塗料の耐久性は、旧来の塗料に比べ大幅に向上しているため、塗膜の耐久性の低下により腐食が発生することは稀な現象だと考えられている。むしろ、塗膜の初期欠陥部や微小欠陥部(ピンホールなど)や錆を落とし切ることが難しい複雑な形状に起因する腐食が多いと判断されている。従って、極めて耐候性の高いふっ素樹脂塗装を用いなくても、ポリウレタン樹脂塗料などで十分機能できると結論づけられている。ただし、JRでも景観上、配慮が必要な橋梁などでは、耐汚染性能の高いふっ素樹脂塗料が用いられる場合がある。鉄道特有の鉄粉の飛来(鉄道や車輪などから)などによる汚損が日常的に発生するため、景観への配慮は必要に応じて付与されるものだと考えられている。【NEXCOの塗装に対する考え方】NEXCOでは、平成6年(1994)4月から一般外面の塗替塗装の仕様に重防食塗装系としてふっ素樹脂塗料の記載が始まった。その当時は、ふっ素樹脂塗料の他にポリウレタン樹脂塗料も中塗、上塗として用いられ、下地には変性エポキシ樹脂と有機ジンクリッチペイントが使用されていた。平成21年(2009)7月には、塗替塗装に関する要領が改定され、1種ケレンでの重防食塗装では、ポリウレタン樹脂塗料が削除され、ふっ素樹脂塗料に統一された。NEXCOでは、長期促進試験(塗料の耐複合サイクル防食性試験)を実施し、ふっ素樹脂塗料とポリウレタン樹脂塗料などと比較を行い、ふっ素樹脂塗料の防食性能の高さが確認された。ただし、3種ケレンで素地調整された試験体では、大きな差は見られないことから、十分な素地調整を施さない限り、ふっ素樹脂塗料の性能を発揮することは難しいと判断されている。そのため、塗膜の劣化程度であれば3種ケレンで対応されるが、錆の発生が確認された場合には、87