ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

成6年(1994)から埼玉県の所有となり、所沢航空発祥記念館の格納庫で保管され、平成19年(2007)から館内で展示保存されることになった。平成6年から19年まで温湿度管理されていない格納庫で保管されてきたが、機体の状態は概ね良好であった。ただし、鉄製部品の塗装などの剥離部には赤錆が発生していたことから、機体の保護を目的とした展示ケースが製作された(写真4-10)。【保存の概要】展示ケース製作の主目的は、見学者などが本機に触れることを防ぐためである。機体には、使用時に塗装されたと推測される塗膜が残存しており、金属材料だけではなく塗膜も保存対象とされたためである。本報告書の「航空機における金属部品の腐食とその対応について(写真27,28)p.66」でも指摘されているように手油による錆の発生や接触による塗膜の剥落が考えられたためである。接触を要因とする劣化の他に、結露により錆が発生する可能性もあったため、展示ケース内に湿度45%±5%で調整された調湿剤を敷き詰め(写真4-11)、結露の発生予防と保存環境の安定化に努められている(調湿剤は2年に1回交換)。さらに、展示ケース内での金属材料の変化を調べるため、展示ケースへ移す前年の平成18年(2006)から3年間、超音波計測器を用いて機体(胴体が中心)25箇所の板厚計測が実施され(図4-2)、板厚に変化が起きていないことが確認されている。平成18年からは温湿度計測器を設置し、機体の保存環境の安定化にも取り組まれている。【所見】展示ケースを使用した保存環境の整備により、本機との接触に起因する発錆、塗膜の剥離を防ぐことができた。また、展示ケース内に調湿剤を設置することで結露対策も実施されている。この展示ケースを使用した保存方法は、海外でも高く評価され、イギリス海軍航空隊博物館(Fleet Air Museum)に収蔵されている「ショート184」は、本機の展示ケースを参考に同様のケースが製作された17。(4)設備の改良による保存-旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)竣工:昭和10年(1935)構造形式:鋼製昇開橋、橋長507.2m、鋼製ワーレントラス二基、鋼製吊上塔二基、鋼製プレートガーダー十三基(可動桁一基を含む)、コンクリート造橋台二基(左岸側翼壁を含む)、鉄筋コンクリート造橋脚十四基、バランスウェイト及び捲揚装置一式(機械室を含む)よりなる重要文化財指定:平成15年(2003)5月30日指定基準:(二)技術的に優秀なもの、(三)歴史的価値の高いもの所在地:福岡県大川市大字向島地先、佐賀県佐賀市諸富町大字為重地先所有者:公益財団法人筑後川昇開橋観光財団工事期間:平成21年(2009)4月? 23年(2011)1月写真4-10:展示ケース内で保存されている状況【保存修理工事の経緯】本橋を鉄道橋(写真4-12)から歩道橋へと改変するため、平成5年から7年度(1993.10-1996.3)にかけて整備工事が実施され、コンクリート床版が設置された(写真4-13)。写真4-11:展示ケース内の床に調湿剤が敷き詰められた状況写真4-12:鉄道橋時代の橋梁(提供:(公財)筑後川昇開橋財団)図4-2:板厚計測箇所(緑丸の箇所)写真4-13:現在の床版の水はけ状態(矢印:水溜り箇所)86第6章鉄構造物の保存と修復に関する事例集