ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

【保存修理工事の経緯】本橋(写真4-4)は、道路橋と水管橋の2つの機能を有する橋であり、橋脚には鋳鉄製の水道管が転用されている。昭和5年(1930)には、床版が木造から鉄筋コンクリート造へと変更されている。昭和53年(1978)に新たな水源地が建設されたことにより、水道施設としての役割を終え、老朽化が進行していった。特に橋桁部分の腐食による劣化は著しく、構造体を維持し続けることが難しい状態であった。部材の腐食状況から判断すると部材交換が一般的な方法になるが、その方法を選択してしまうと残せる部材が僅かとなり、取替率の高さが問題となった。【保存修理工事の概要】本橋の保存修理工事では、床版の断面修復、橋脚の補修と根巻補強、橋台の石積みを部分解体して深礎及び新設基礎の打設などが行われた(写真4-5)。顕著な腐食がみられる橋桁に対しては、欠損部の断面復旧は行わず、防錆塗装による部材の現状保存が優先された(写真4-6,7,8)。ケレンによる断面欠損を抑えるため、浮き錆の除去のみが実施された。本手法により既存の構造形式や意匠は犠牲にすることになったが、材料は最大限保存された。防錆塗装として使用されたマイティCF-CP(マイティ化学株式会社)には、不動態皮膜(黒錆)を形成するカルシューム系アルカリ付与剤や錆の拡大に伴う塗膜の割れを防止する炭素繊維などが添加されている。黒錆を形成する錆転換処置は、錆の表層部分を安定した黒錆に転換することができる。しかし、鋼材と錆の収縮率が異なる影響により、表層の黒錆層に割れのような現象や塗布しきれなかった箇所などから赤錆が再び発生する場合がある。ただし、本塗料には炭素繊維が添加されているため、錆の動きに追従することができるとされており、塗膜下塗赤錆の挙動に追従黒錆層鉄骨赤錆の挙動赤錆層下塗:炭素繊維入り無機系防錆剤(錆転換剤入)ケレン:3種(浮錆を手動工具で除去)下塗赤錆の挙動に追従できずクラックが発生黒錆層鉄骨赤錆の挙動赤錆層下塗:エポキシ系等の防錆剤+錆転換剤ケレン:3種(浮錆を手動工具で除去)の割れに起因する劣化を防げる可能性がある(図4-1)。本水道施設には、本橋も含め2橋の橋が保存されている。施設の利用計画上、下流側に位置する本橋を人道橋として利用するため、床版、支承の改善を前提とした工事が計画され、安全性は仮設鉄骨橋で確保した上で、人道橋としての機能を併せ持つ形で橋の保存修理が実施された。そのため、上流側の橋では、腐食部を補修して防錆塗装による材料の保存が実施されたものの、通行止めの措置が取られている。最後に、本保存修理工事の担当者から、本手法に対して以下の注意点が挙げられた。?材料の特性上、仕上がりに凹凸が残る点?付着力が強いため、塗装後の除去が困難である点【所見】本橋で導入された方法は、極度に腐食が進行している部材に対して構造体としての機能や意匠性は犠牲にすることになるが、建設当初の部材の多くを保存することができている。文化財指定・登録されている構造物の中には、同程度の腐食が発生しているものもあるため、各構造物の価値に即した保存・修復方法を検討する上で参考になる事例と言える。ただし、比較的新しい工法であるため、引き続き経過観察する必要がある。(3)保存環境の整備と管理-陸軍九一式戦闘機製造:昭和8年(1933)1月組立検査・飛行検査:昭和8年(1933)2月構造形式:胴体(アルミニウム合金)金属製応力外皮構造、主翼(高張力薄鋼板骨格)、木金混製構造高翼単葉形態。重要航空遺産(認定団体:一般財団法人日本航空協会):平成20年(2008)3月28日所在地:埼玉県所沢市並木1-13県営所沢航空記念公園内(所沢航空発祥記念館)所有者:埼玉県【保存の経緯】陸軍九一式戦闘機は、日本航空技術が海外の追従から自立に移る転換期の設計・生産技術の状況を示す航空機であり、本機は現存する唯一の機体である。第2次世界大戦中に個人所有となり、長期間屋内にて保管されていた(写真4 - 9)。平下塗鉄骨下塗:エポキシ系等の防錆剤ケレン:1・2種(錆を電動工具で除去)図4-1:防錆塗装のイメージ(参考:(公財)文化財建造物保存技術協会(2018)、『重要文化財(建造物)旧美歎水源地水道施設保存修理工事報告書』、p.56。)写真4-9:個人保管時の状況(提供:所沢航空発祥記念館)85