ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

リベット焼き炉コンプレッサースナップリベットガンリベット焼きばさみリベット差し込み板ばさみリベット受けエアあて盤図3-5:リベット施工に必要となる主要な道具いられることが多い。また、鋲の素材によっては、鉸鋲前に鋲を加熱する必要があり、橋梁や船舶などで使用されている鋼材の鋲がそれにあたる(図3-4)。建造物で用いられているリベットを鉸鋲するためには、以下の道具が最低限必要となる(図3-5)。コンプレッサーから空気を送り高温焼成が可能な炉、加熱したリベットを移動・取り出すためのリベット焼きばさみ、加熱されたリベットを受け取るリベット受け、鉸鋲箇所にリベットを差し込むはさみ、差し込み側のリベットの頭部を固定するエアあて盤、リベットの頭部を整形するスナップ、そしてリベットガンである。(2)リベット接合技術に関する現状の課題リベット接合されている鉄構造物を修理する際の問題点は、支圧接合であるリベットから摩擦接合であるトルシア形高力ボルト(以下、高力ボルトとする。)へ取替えられ、接合方法が変更される点である。リベットによる修理に比べ、高力ボルトによる修理は、施工費用が安く、施工期間も短く済むことが最大の要因である。そのため、高力ボルトの普及や溶接技術が発展するにつれてリベットを用いる鉄構造物は減少していった。それに伴い、リベットの施工技術を保有する企業や職人は大幅に減少し、道具の維持管理、技術の継承が大きな課題となっている。現在リベット技術を保有する企業は、蒸気機関車のボイラー部分の修理を実施している株式会社サッパボイラ(大阪市)(以下、サッパボイラとする。)と土木構造物を中心に施工している成和工業株式会社(大阪市)(以下、成和工業とする。)、株式会社フルテック(大阪市)、株式会社藤原鐡工所(松江市)など限られた企業でしか施工することができない状況である。サッパボイラならびに成和工業については、付録(1)、(2)(p.102)で詳しく紹介する。航空分野では、リベット技術が現役の技術として用いられているが、建造物で用いられているリベットとは素材、鉸鋲方法も大きく異なるため、航空分野のリベット技術を建造物に応用することは難しい。また、造船分野では、高い水密性を確保するため橋梁などで使用されるリベットよりも、はるかに大きな径のリベットが用いられていた。しかし、溶接技術の発達によりリベット接合が用いられなくなったため、リベットによる修復が困難となっている。さらに、リベットガンなどの機械の中には、消耗品が含まれているが、それら消耗品を安価に提供できる企業も廃業などにより数を減らしているため、機械などの道具を維持管理することが難しくなっている。【課題に対する事例紹介:リベットの損傷分類-旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)(p.94 ? )、リベット接合への復旧工事-長浜大橋(p.95 ? )】3.6.維持管理に関する現状の課題本事例集では、鉄構造物全般の維持管理方法については、個々の環境、維持管理の体制などが大きく異なるため、動態保存されている可動橋梁の維持管理の状況について紹介することとする。可動装置が組み込まれた可動橋梁は、可動に伴い歯車などの摩擦面に損傷が発生することがある。損傷には、摩耗(摩擦によって接触面が逐次減量する現象)、塑性流動(降伏応力を超えた力が加わった場合、不可逆的な変形が生じる現象)、転がり疲れ(摩擦面に繰り返し負荷を受けることで、負荷を受ける範囲の金属に剥離などの金属疲労が発生する現象)、焼き付き(潤滑不良が発生すると摩擦面が融着を起こし、表面を引き剥がす現象)などがあり、摩耗、塑性流動、転がり疲れなどは通常可動下で発生する損傷であり、焼き付きは、潤滑不良や過大負荷によって引き起こされる。歴史的な可動橋梁では、部品の一部や駆動装置などが交換されているものもあるが、建設時に設置されたと考えられる部品の多くが現役として用いられている。そのため、一般の機械類のように損傷した部品は交換すれば良いという考え方ではなく、損傷させないための使用方法が事例ごと検討されている。特に部品・部材の劣化状態の見極めなどが重要になるが、定期検査を実施している業者では、その見極め作業は困難である。部品・部材の劣化状態については、専門家や専門組織の診断を仰ぎ、適切な維持管理方法を設定し、部品・部材の長寿命化を図る必要がある。一方で、損傷をさせたくないのであれば可動を止めるという考え方もあるが、可動時の姿を保存することにも配慮され、損傷状態を考慮しながら可動回数を制限するなどの対策が講じられている15。部品交換に伴う問題として、消耗した部品を交換する際に、既存部品の材料強度と異なるものに交換した場合、これまでとは異なる部品に新たな消耗が現れる恐れがある16。こうした変化に早急に気づくことができるよう部品の交換直後は、交換部品および関連部品の状態を十分に観察する必要がある。また、各部品も現在では入手することも困難なものも少なくないため、部品だけではなく、製造機械ならびに製造技術も保存していく必要がある。可動橋として保存するためには、部品の維持管理も重要であるが、可動に伴う部品類の緩みなどのズレを定期的に調整する、可動システムを保全する技術の保護も大きな課題となっている。それぞれの橋梁は異なるシステムで可動しているため、82第6章鉄構造物の保存と修復に関する事例集