ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

(2)地震力低減方法免震、制震装置を設置し、構造体が受ける地震力を低減させる方法である。我が国最初の免震橋は平成3年(1991)に竣工した宮川橋であり、支承部に鉛プラグ入り積層ゴム支承(LRB)が採用されている。既存の橋梁への免震・制震装置の導入事例は、新潟県中越地震で被災した芋川橋(昭和53年竣工)や塩殿橋(昭和56年竣工)の復旧事例があげられる。芋川橋では、ピン支承やピンローラー支承を超高減衰積層ゴム支承(HDR-S)へ変更し、復旧している。塩殿橋では、鋼製支承から高減衰積層ゴム支承への改変や制震ダンパーの設置などが行われている。耐震補強を目的とした工事としては、平成15年(2003)に実施された酒匂川橋(昭和44年竣工)の事例があげられる。酒匂川橋では、鋼製支承を鉛入り積層ゴム支承(LRB)へ交換する構造補強が実施されている13。(3)課題および留意点鉄構造物を構成する部材は、構造部材としての価値のみではなく、構造体そのものが意匠的な価値や景観上の価値も併せ持つものが多い。そのため、同型の部材へ交換し補強することは、材料の価値を損なうことになる。また、劣化した部材を存置し、新たな補強部材を付加した場合、大きく意匠・景観性を損なう可能性がある。さらに、建設年代によっては、使用されている材料が錬鉄やベッセマー鋼などの溶接に不向きな材料が用いられている可能性があるため、加工上留意が必要となる場合がある。以下に構造補強を実施する上での留意点をまとめる14。1本来の構造形式・材料を尊重した補強方法を検討する。2部位全体におよぶ変更は避ける。3公開・使用範囲から見えない位置で補強が実施可能か検討する。4公開・使用範囲から見える位置で補強を実施する場合は、違和感が生じないように、形状には十分に配慮する。5補強材料は、同一性状と異なる性状の2方向から補強方法を検討する。6同一性状で補強する場合には、本来の部材とは異なることを示す。7補強部材の除去や更新が可能な方法を選択する。8ケレン・塗装作業など維持管理上必要となる作業が容易に行えるようにする。9修理工事時の耐震性を確保する。【課題に対する事例紹介:構造形態に合わせた補強-森村橋(p.90 ? )、材料を保存するためのバイパス補強-美濃橋(p.91? )、最小限の介入による劣化部の補強-旧揖斐川橋梁(p.92? )、機能分離型の補強-永代橋(p.93 ? )】3.5.建設当初の技術保存に関する現状の課題(1)リベット接合技術リベット接合とは、複数の金属板を接合させるために削孔した孔に鋲型の金属を差し込み、差し込んだ側の鋲の頂部を叩き潰す(鉸鋲)ことで、孔の隙間に鋲を充填させて接合される支圧接合方法である。鋲には様々な形状があるが、頭部が曲面形状をした丸鋲と接合させる板と平滑になる皿鋲の2種類に大別でき、橋梁などには丸鋲、船舶や航空機には皿鋲が用リベットの施工手順接合部材リベット約1,100℃まで加熱当て盤で押さえる当て盤冷却による収縮で軸力が発生板厚や孔に合わせて切断dd’リベット孔リベット径d、リベット孔径d’d’≒d + 1.5 mmリベットハンマーリベットハンマーでたたいてつぶすたたきつぶされることで充填されるリベットの形状丸鋲丸リベット接合方法によるメカニズムの違い[リベットによる支圧接合] [高力ボルトによる摩擦接合]支圧力高力ボルトナット締め付け力摩擦抵抗皿鋲皿リベット力力せん断抵抗図3-4:リベット施工の手順および、リベット形状と接合方法のメカニズム(参考:大村拓也(2016)、「リベット補修する築77年の現役可動橋」、日経コンストラクション編、『橋の改修・改良図鑑計画・設計・施工の勘所を目で覚える』、pp.76-77。)81