ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

表3-3:素地調整の分類(参考:JIS Z 0313:2004「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」)除錆度(ISO)一般呼称表面の状態Sa31種ケレン拡大鏡なしで、表面に目に見えるミルスケール、錆、塗膜、異物、目に見える油、グリースおよび泥土がなく、均一な金属色を呈しているSa2・1/2拡大鏡なしで、表面に目に見えるミルスケール、錆、塗膜、異物、目に見える油、グリースおよび泥土がなく、残存する全ての汚れは、その痕跡が斑点またはすじ状のわずかな染みだけとなって認められる程度Sa2?拡大鏡なしで、表面にほとんどのミルスケール、錆、塗膜、異物、目に見える油、グリースおよび泥土がなく、残存する汚れの全てが固着(※1)しているSa1?拡大鏡なしで、表面に弱く付着(※2)したミルスケール、錆、塗膜、異物、目に見える油、グリースおよび泥土がないSt32種ケレン除去できそうなミルスケール、錆、塗膜、異物は除去、St2よりも念入りな素地調整が必要であり、金属から光沢がでていることが条件St23種ケレン除去できそうなミルスケール、錆、塗膜、異物は除去※1:刃の付いていないパテナイフでは、剥離させることができない程度の付着※2:刃の付いていないパテナイフで剥離させることができる程度の付着一方、屋内保存されている車、航空機、機械などの鉄構造物は、露天に晒されていないこともあり屋外にある構造物と比較すると保存状態は良いものが多い。ただし、結露などによる水との接触の危険性があるため、空調設備を導入しているが、その設備の維持管理、ランニングコスト(以下、LCCとする。)などが大きな課題となっている。【課題に対する事例紹介:温湿度管理による保存-九一式戦闘機(p.85 ? )、設備の改良による保存-旧筑後川橋梁(筑後川写真3-1:ケレン作業のための養生状況(剥離した旧塗膜や研削材を河川や周囲へ飛散させないための対策)また、1種ケレンをかけても平滑面であれば十分に除錆することができるが、部材が重なりあっている箇所などでは、Sa3の除錆を目指しても部分的に除錆できないことがあるため、構造物全体で完全に錆を取り除くことは不可能と言える。そのため、残存する錆を安定化させる素地調整補助剤を用いる事例が出てきている7。特に歴史的鉄構造物の場合、退役した施設などでは十分な維持管理が行われないまま現在に至っているものがあり、1種ケレンを実施した場合、素地がほとんど残らないものもある。そうした極度に腐食が進んだ部材に対して、どの程度効果を発揮できるのか、実績を積み重ねていく必要がある。【課題に対する事例紹介:腐食した部材の保存-旧美歎水源地水道施設下流側管理橋(p.84 ? )、塗装の選択-鉄道総合技術研究所・高速道路総合技術研究所(p.87 ? )】(4)その他の課題このように歴史的鉄構造物では、塗装による防食が一般的に実施されているが、塗装による防食の他に構造物の価値を損なわずに部材を保護する方法が十分に確立されておらず、選択肢がほとんどない状況である。また、劣化部位に対する補修は実施されるものの、劣化要因の特定や改善が行われないため、再び同じ位置に同様の劣化が発生する事例がある。そのため、劣化要因を特定し、劣化部の補修に合わせて環境改善工事を実施することが望ましい。昇開橋)(p.86 ? )】3.3.劣化した部材の補修に関する現状の課題全ての補修方法に共通する課題として、鉄構造物を構成する部材は、構造的な価値のみではなく内外観を形成する意匠材としても価値が高く、補修・補剛部材が付加されることで意匠的な価値を損なう恐れがある。そのため、付加する部材の位置や形状は特に配慮が求められる。具体的な補修方法に関しても、各現場の部材の特徴や腐食状況に合わせて、肉盛り溶接、添板補修、突合わせ溶接、部材の交換などが検討されており、十分に補修方法が確立されていない(図3-2)。(1)溶接補修に関する現状の課題歴史的な鉄構造物を溶接補修する際には、使用されている金属の種類、施工環境、選択する溶接方法などに配慮が必要になる。使用されている金属が鋳鉄、錬鉄、ベッセマー鋼などでは、材質が不均一で溶接補修には向かない材料とされている。また、溶接補修を行ったとしても、残留応力により割れなどが発生する場合があるため、部材の保護を優先すると溶接による補修は選択しづらい。さらに、材質が鋼であっても、昭和3年以前に製作された鋼材では、材質的に不均一なものが多く、強度的に規格値は保証されているが、靭性が低く割れをおこしやすい。そのため、溶接は可能ではあるが、その他の安全な補修方法を選択できるか検討することが望ましい8。大型構造物なども含まれる鉄構造物では、素屋根をかけるこ79