ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

3.2.防食方法と現状の課題防食法被覆防食法塗装(1)防食方法既存の鉄構造物に対して腐食を予防する防食方法は、図有機被覆重防食被覆3-1にまとめた通りである。超暑膜形被覆まず、防食方法は、被覆防食方法と電気防食方法の2つに水中硬化形被覆大別することができる。被覆防食は、鋼材を有機または無機のペトロラタム被覆被覆で覆い、水や酸素の浸入を遮断する物理的な方法である。金属被覆金属溶射、めっき耐食性金属被覆厚板クラッド鋼無機被覆モルタル被覆コンクリート被覆電気防食は、保存対象の部材に腐食電流に打ち勝てる電流を通電させることで、腐食しない電位にまで変化させ、鉄のイオン化を防ぐ方法である。それぞれの防食方法は、さらに細かく分類できるが、本事例集で対象とする歴史的価値を有する鉄構造物では、被覆防食方法の塗装方法が一般的な方法として用いられている。表3-1:塗装時および乾燥時に生じる塗装に関する欠陥(参考:(公財)鉄道総合技術研究所(2013)、『鋼構造物塗装設計施工指針』、p.Ⅱ-48。)欠陥名現象原因ピンホール塗膜にできた小さな下塗りの乾燥不足、塗料とピッティング穴大きな窪み被塗面の温度差が大きい場合、被塗面にゴミ、油、水クレタリング噴火口状の穴の付着、塗料内に油や水の混入はじき塗料が弾いてできる塗面に水、油、ゴミの付着、穴または窪みはけ、ローラー、スプレー装置に水、油、ゴミが付着し、塗料内に混入、被塗面が平滑過ぎたり、下塗り塗膜が硬すぎたときあわレフティング塗料中に混入した空気により生じた空洞塗料を強く攪拌した直後に塗装、溶剤の蒸発が早い、被塗面の温度が高いとき、塗料の粘土が高すぎるとき上塗りと下塗りの組上塗り塗料の溶剤が強すぎ、み合わせが適当でな下塗りと上塗りの組み合わい時に生じる塗膜のせが適当でない、下塗りと縮れや剥離上塗りの塗装間隔が十分空いていない表3-2:錆度の分類(参考:JIS Z 0313:2004「素地調整用ブラスト処理面の試験及び評価方法」)錆度表面の状態大部分が固いミルスケールで覆われ、錆はあってもごくAわずかBCD電気防食法電着被覆流電陽極方式外部電源方式図3-1:防食方法の分類(参考:沿岸開発技術研究センター(2009)、『港湾鋼構造物防食・補修マニュアル2009年版』、p.36。)錆が発生し始めており、ミススケールは剥離し始めている全面が錆に覆われ、ミルスケールはあっても容易にかき落とせる全面が錆に覆われるとともに、鋼材素地面にかなりの孔食が認められる(2)塗装に関する現状の課題塗装による防食は、その他の方法と比べ施工性の良さ、塗り直しによる美観の改善効果の高さ、施工事例数などが利点としてあげられる。ただし、1回の塗装にかかる費用が高額になるため、耐用年数が長い塗料が用いられることが多く、塗料の性能を十分に発揮させるため、塗装する金属面を十分に除錆し、素地調整を実施する場合が多い。除去する旧塗膜には、下塗りに現場調合された鉛丹錆止め、上塗りにベンガラと鉛系錆止め顔料を調合した油性調合塗料が用いられていた可能性が高い。そのため、鉛やクロム、タールといった発ガン性物質を含む塗膜を飛散させないための防止対策を講じる必要がある。これらの対策を必要とする化学物質などは、有害化学物質量(PRTR法(Pollutant Release andTransfer Register=化学物質管理促進法)で指定した化学物質量)とVOC(Volatile Organic Compounds =揮発性有機化合物)排出量で定められている5、6。塗装は、酸素や水などを金属に触れさせない遮断的な防食方法であるが、塗装作業中および乾燥過程中に防食性能を大幅に低下させる欠陥が生じる場合があり、完全に遮断することは難しい。欠陥内容は表3-1の通りである。これらの欠陥が発見された際には、塗り直しが必要になるが、微細な欠陥は見落とされる可能性があり、欠陥部から腐食が発生する恐れがある。【課題に対する事例紹介:錆の進行速度を勘案した保存-旧三河島汚水処分場喞筒場施設喞筒井阻水扉(p.83 ? )】(3)素地調整に関する現状の課題素地調整は、金属表面に発生した錆の状態(表3-2)からどの程度錆を除去したいかによって決まり、除錆した金属表面の状態ごとに区分されている(表3-3)。最も除錆度の高いSa3の1種ケレンと呼ばれる素地調整を実施することで、表面上の錆をほぼ全て除去することができるため、防食効果をより高める方法とされている。ただし、旧塗膜に含有している可能性の高い有害物質を飛散させないために大掛かりな養生を必要とする(写真3-1)。78第6章鉄構造物の保存と修復に関する事例集