ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

研究の概要北河大次郎東京文化財研究所保存科学研究センター近代文化遺産研究室長1.研究の背景と位置づけ鉄構造物の文化財指定は、近年増加傾向にあるとはいえ、重要文化財全体から見れば、その数は極めて少ない。重文指定されているわが国の建造物を主要材料別で分類すると(表1)、鉄構造物は、近代以降に普及するコンクリート造や煉瓦造といった他の建造物と比べても特に少なく、全体の1%にも満たない。総数でいえば、34基である。ここでは、鉄骨煉瓦造や鉄骨鉄筋コンクリート造を、それぞれ煉瓦、コンクリートに分類しているため、それらを除いた純然たる鉄骨造が鉄構造物の対象となる。その内訳を見ると(表2)、建築物よりも土木構造物、工作物が多数を占めていることがわかる1(物件の詳細については巻末資料(p.106 - 112)参照のこと)。指定件数が少なければ、当然その保存修理の機会も限られる。実際これまで保存修理が完了した鉄構造物は12基に過ぎない(表2)。一方、関係するビルディングタイプは多様で、かつ、いずれも従来の保存修理で扱われることが少ないタイプである。平成28年度(2016)に近代文化遺産研究室が研究対象にした煉瓦造建造物は、非木造建造物の中でも文化財保護の歴史が比較的長く、本研究により、修理実績の蓄積に伴い、その考え方や手法が次第に洗練されていったことが明らかとなった2。現在では、過去の修理の検証を踏まえて、修理の方針を検討することができる。一方、鉄構造物の保存修理工事は、そのほとんどが平成20年(2008)前後から実施又は検討されたもので、現状ではまだ過去の実績を十分検証しうる段階に至って表1重要文化財建造物の主要材料別棟数の割合(平成30年(2018)6月現在):附物件は含めていない。文化庁提供のデータに基づく。木土蔵石コンクリート煉瓦鉄銅土77.0% 8.2% 6.6% 3.6% 3.4% 0.7% 0.4% 0.1%未満表2重要文化財に指定されている鉄構造物の類型別分類(平成30年(2018)6月現在):灰色は保存修理実施済の物件、赤色は保存修理実施中又は検討中の物件を示す。類型件数名称橋梁23旧手宮鉄道施設転車台(北海道)、藤倉水源地水道施設管理橋(秋田県)、古河橋(栃木県)、日本煉瓦製造株式会社旧煉瓦製造施設備前渠鉄橋(埼玉県)、清洲橋・永代橋・勝鬨橋・旧弾正橋(八幡橋)(以上、東京都)、富岩運河水閘施設(中島閘門)中島橋(2基)(富山県)、旧揖斐川橋梁・美濃橋(以上、岐阜県)、末広橋梁(旧四日市港駅鉄道橋)(三重県)、神子畑鋳鉄橋(兵庫県)、長浜大橋(愛媛県)、旧魚梁瀬森林鉄道施設明神口橋・同釜ケ谷橋・同犬吠橋・同井ノ谷橋・同小島橋・同落合橋(以上、高知県)、南河内橋・旧筑後川橋梁(筑後川昇開橋)(以上、福岡県)建築物3旧佐渡鉱山採鉱施設高任粗砕場・同高任貯鉱舎及びベルトコンベアヤード(新潟県)、名古屋市東山植物園温室前館(愛知県)櫓3旧佐渡鉱山採鉱施設大立竪坑櫓(新潟県)、三井石炭鉱業株式会社三池炭鉱宮原坑施設第二竪坑櫓(福岡県)、三井石炭鉱業株式会社三池炭鉱旧万田坑施設第二竪坑櫓(熊本県)門2学習院旧正門・妙法寺鉄門(以上、東京都)水槽2旧手宮鉄道施設貯水槽(北海道)、旧富岡製糸場鉄水溜(群馬県)船舶1明治丸(東京都)6第1章研究の概要