ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

ページ
78/120

このページは 「鉄構造物の保存と修復」日本語版 の電子ブックに掲載されている78ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

カソード領域(酸素の還元反応)O2O2e -H 2OOH -H 2OFe(OH) 2Fe 2+アノード領域(鉄の酸化反応)Fe赤錆Fe酸化鉄Fe(OH)3水酸化第二鉄2+Fe結合Fe(OH)鉄イオン水酸化第一鉄酸化2結晶化図2-2:金属腐食の概念図(参考:社団法人日本道路協会(2005)、『鋼道路橋塗装・防食便覧』、p.Ⅰ-5。)FeOOHα-FeOOHゲーサイトオキシ水酸化鉄脱水γ-FeOOHレピドクロサイト還元黒錆α-Fe O23α-酸化第二鉄(ヘマタイト)酸化Fe O3 4四酸化三鉄(マグネタイト)写真2-1:すき間腐食さ(健全な同部材が破断する時の応力)以下でも破断に至り、繰り返し応力でも、健全な同部材が耐えられた回数に達する前に破断するなど、腐食に伴い金属が脆化する2。2.2.錆の種類錆の明確な定義はないが、金属が酸素と結びついた酸化物をさしているだけではなく、腐食の結果生成される腐食生成物のなかで固体化し嵩のあるものをさすことが多い。鉄錆の生成過程は非常に複雑で、完全に解明されているとはいえない。水中や大気中の炭素鋼の腐食をもっとも単純化すると、以下の過程を経る(図2-3)。炭素鋼表面でアノード反応が起こると2価の鉄イオンが溶出する。鉄イオンは水酸化物イオンと反応して水酸化第一鉄が生成される(最初の腐食生成物)。水酸化第一鉄は酸化されやすい物質であるため、水中では徐々に、大気中では速やかに酸化し、水酸化第二鉄となる。水酸化第二鉄は赤色から褐色の物質で、これが赤錆と呼べる最初の腐食生成物になる。最終的に、この水酸化第二鉄が赤錆内に残ることもあるが、通常は結晶化してオキシ水酸化鉄となる。オキシ水酸化鉄には、同質多形が存在し、おもにゲーサイトとレピドクロサイトが生成される。海水のように塩化物イオンが存在する環境では、アカガネイトも生成される。水中でオキシ水酸化鉄の錆層が成長すると、炭素鋼表面とオキシ水酸化鉄の間にマグネタイト(四酸化三鉄:黒錆)の層ができる。ただし、空気に触れると容易に赤錆となる。大気が湿潤を繰り返す環境でオキシ水酸化鉄の錆層が成長すると、一部が脱水して酸化第二鉄の同質多形の1つであるヘマタイトになる。また、水中で生成された四酸化三鉄は還元性の環境では安定しているが、大気に触れると酸化図2-3:湿食による腐食生成物(参考:藤井哲雄(2017)、『最新オールカラー図解錆・腐食・防食のすべてがわかる辞典』、株式会社ナツメ社、p.171。)第二鉄となる3。2.3.材料破損の種類鉄構造物の破損は、延性破壊、脆性破壊、疲労破壊などがあげられる。延性破壊は、過荷重負荷によって塑性変形を伴う破壊。脆性破壊は、材料が脆化し塑性変形を伴わず、へき開面(特定の結晶面)もしくは結晶粒界面で瞬時に破壊を引き起こす。疲労破壊は、変動する荷重(風、走行車両など)を繰り返し受けることで、亀裂が発生する破壊。塑性ひずみの割合が大きな疲労は低サイクル疲労、弾性ひずみによる疲労は高サイクル疲労と呼ばれる。高・低サイクルの境目は、一般の機械工業では10の5乗回、航空機業界では10の4乗回が目安とされている4。2.4.劣化・破損のプロセス筑後川昇開橋では、部材の劣化・破損に関する調査工事が実施され、劣化・破損が発生する要因や段階ごとの劣化・破損の状態をまとめたプロセス図が作成された。その図を参考に、その他の鉄構造物(特に橋梁)でも発生する可能性の高い劣化・破損のプロセスをまとめた(図2-4,5)。3.鉄構造物の保存と修復に関する現状の課題3.1.はじめに第3章では、第2章で紹介した劣化と破損に対して、現在、実施されている劣化・破損対策と現状の課題について整理する。76第6章鉄構造物の保存と修復に関する事例集