ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

ページ
76/120

このページは 「鉄構造物の保存と修復」日本語版 の電子ブックに掲載されている76ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

1.はじめに1.1.背景と目的現在、文化財指定されている金属製の構造物・工作物(以下、鉄構造物とする。)の中には、橋梁、水利施設、建築物、工業施設などの建造物のほか船舶、鉄道車両、製造機械などの工作物が含まれている。橋梁の中には、可動橋などの機械設備が設けられたものも含まれているため、保存に対する考え方も対象物によって大きく異なっている。また、金属は腐食による劣化を食い止めることが難しい材料であり、適切な周期で保存処置が講じられない場合、保存することがより困難な状態に進行してしまう恐れがある(写真1-1)。さらに、鉄構造物の指定文化財の件数が少ないこともあり、保存や修復に関する技術や情報の蓄積が十分とは言えない。そこで本事例集では、近代文化遺産研究室および有識者による勉強会での議論を踏まえ、以下の5点を多くの構造物で共通する保存・修復に関する問題と捉え、文化財所有者や修理技術者が鉄構造物を管理、または修理する上で参考になりうる情報の整理を行うものとする。なおこれら5点と第1章表3(p.7)に示した4つの研究テーマとの対応関係もあわせて示す(表1-1)。写真1-1:鉄骨基礎部の腐食表1-1:保存・修復に関する共通の問題と本報告書の研究テーマ保存・修復に関する共通の問題研究テーマ1防食対策2劣化した部材の補修材料劣化(特に錆)への対応3構造補強供用施設としての機能確保4建設当初の技術保存リベット技術の継承5維持管理保守のノウハウの継承1.2.調査手法(1)現地調査本事例集を作成するにあたり、現地調査を実施した鉄構造物は、巻末資料-3に示した通りである。そして各構造物の修理工事報告書などを参考にしながら、鉄の劣化・破損内容やその補修方法、構造補強方法から特徴的な事例を選定した。現地調査は、可能な限り修理工事を担当された技術者にご同行頂いた。(2)聞き取り調査現地調査では、ご同行頂いた技術者や関係者、維持管理の担当者に対して、以下の項目を軸に聞き取り調査を行った。1鉄の劣化・破損対策2鉄の補修・補強方法3鉄構造物の価値と保存方法(3)資料調査各構造物の修理工事報告書並びに調査工事資料や鉄構造物の保存や修復に関する論文などを参考にした。1.3.事例集の構成まず、第1章で、背景、目的、調査手法を述べた後、第2章は、鉄の劣化・破損のメカニズム、第3章は鉄構造物に関する現状の課題、第4章は各課題に対する保存修復事例の紹介とする。1.4.用語の定義本事例集で用いる代表的な用語について、内容の適切な理解と解釈の統一を図るために用語の定義(表1-2)を示し、以下の文章は表に則って用語を用いることとする。表1-2:事例集用語定義(参考:社団法人日本道路協会(2005)、『鋼道路橋塗装・防食便覧』、p.Ⅰ-4。)鉄構造物(てつこうぞうぶつ)錆(さび)腐食(ふしょく)防錆(ぼうせい)防食(ぼうしょく)塗膜(とまく)2.鉄構造物の劣化と破損2.1.材料劣化の種類金属の代表的な劣化は腐食である。代表的な腐食の形態は図2-1に示す通りである。腐食は、湿食と乾食の2種類に分けられる。湿食は、水が存在する環境で発生する腐食であり、電気化学反応によって腐食が進行するのが一般的である(図2-2)。腐食反応には、溶存酸素(水に溶けた酸素)、水素イオンといった酸化剤などが必要となる。一方の乾食は、水が存在しない環境で発生する腐食であり、金属と酸化剤となる酸素や各種高温ガスなどが直接反応することで腐食が進行する。乾食は、高温環境下で発生する腐食であるため、詳しい紹介は省略する。主に金属製品で構築された構造物。事例集では建造物、機械、鉄道車両、航空機、船舶を主な対象物としている鉄表面に生成する水酸化物又は酸化物を主体とする化合物。広義には、金属表面にできる腐食生成物金属がそれを取り囲む環境物質によって、科学的又は電気化学的に腐食されるか、もしくは材質的に劣化する現象金属に錆が発生するのを防止すること金属が腐食するのを防止し、損傷として認められない範囲でのある程度の錆の発生は許容している塗装などの樹脂により形成された膜湿食は、全面腐食と局部腐食に分類することができる。全面74第6章鉄構造物の保存と修復に関する事例集