ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

み付けられており、そのような異種金属が接触する個所では、接触腐食を確認した(写真36、37、38)。(3)修復および保存処置当該機は、博物館移設後は基本的に収蔵庫で保管され、これまでに修復は実施されていない。本機は試作1号機ということもあり、運用中に搭載エンジンを輸入品から国産品に変更する際にエンジンマウントを改修した跡をはじめとして、航空機開発の試行錯誤の痕跡が機体の各所に残っている。腐食箇所を取り除き新たな部品に置き換えるような単に見栄えを良くする修復を実施すると、今日まで残ってきた航空機開発の来歴を克明に物語る痕跡をも失うことになりかねない。当面の間は温湿度の点検・管理などを通して保管環境に注意を払い、新たな腐食の発生がないことを定期的に確認することが求められる。3.まとめ航空機などの近代化遺産を文化財として扱い残す考え方は、今日では一般的になってきた。今後金属の腐食箇所を修復する際には、運用している航空機の整備や修理の際に実施しているような手法を取るのではなく、文化財的価値を損ねることの無いように文化財分野の専門家の見解も交えて修復保存の方針を定めた上で、修復実施の是非を含めて実施内容を決めることが必須となる。以下は、前述した腐食および修復の具体例から、アルミニウム合金や鉄などの金属材料から構成される航空機を文化財として後世に残すための留意点である。1航空機の展示保管の環境として屋外は適さない。2屋内展示の場合も、腐食の原因となる結露を起こさないように温度湿度を常に点検・管理し、必要に応じてコントロールを行う。3航空機はアルミニウム合金を主要材料として鉄など複数の金属がくみこまれているため、異種金属による接触腐食が発生する可能性がある。理想的にはそれぞれの金属に絶縁処置を施すことだが、そのためには航空機に多く用いられるリベット結合を外すなど不可逆な処置を行う必要があり、膨大な手間がかかるだけでなくオリジナリティを失うことになるため避けるべきである。接触腐食は水を遮断することにより防止することが可能なため、結露の発生を抑制するなど保管環境に注意を払うことが最優先事項となる。4大型の航空機は、その機体の規模から必ずしも屋内で保管できるとは限らない。やむを得ず屋外で保管する写真36主翼の胴体側取り付け部。翼根の後桁を胴体に結合するための取り付け金具(○印内)は鉄製であるため、赤錆が発生。(2018年2月撮影)写真37翼根の取付金具周辺部の拡大写真。鉄製のボルト(←)を用いて結合された高強度のアルミニウム合金は、接触腐食と思われる剥離腐食を起こしている。(2018年2月撮影)写真38後部胴体上部の垂直尾翼取り付け用金具。鉄製のボルトが組み込まれたアルミニウム合金製の取り付け金具は、腐食が発生して塗装がはがれている。(2018年2月撮影)68第5章航空機における金属部品の腐食とその対応について