ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

ページ
69/120

このページは 「鉄構造物の保存と修復」日本語版 の電子ブックに掲載されている69ページの概要です。
秒後に電子ブックの対象ページへ移動します。
「ブックを開く」ボタンをクリックすると今すぐブックを開きます。

概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

管されている(写真30)。(2)金属部品の腐食状況平成13年(2001)の時点では、25年以上にわたり屋外展示されていたとは思えないほど腐食の発生が少なかった。写真33は、その当時、後部胴体の内側を胴体後端の排気ノズルから覗き撮影したものだが、現地で唯一著しい腐食を確認できた箇所である。後部胴体最後方の外板は排気の高温ガスに耐えられるようステンレス鋼板が使われている。少し離れた前方の胴体外板はアルミニウム合金が用いられ、胴体を補強するために胴体の前後方向に向けて配されたストリンガーはステンレス鋼および普通鋼からなり、矢印で示す普通鋼のストリンガーの腐食が著しい。異種金属がリベット止めされる胴体後部は接触腐食が予想される部位であり、腐食電位列からはアルミニウム合金が腐食していなければならない箇所だが、普通鋼が著しく腐食している。屋外展示されていたT-1ジェット練習機にはエンジンが搭載されていなく、排気ノズルから雨が簡単に吹き込むような状態にあった。したがって吹き込んだ雨水がたまり金属単体として錆びやすい普通鋼の腐食が最も進んだと考えるのが妥当だが、接触腐食との関係を含め不明である。運用中の航空機は静電気を帯びると給油の際に火災の恐れがあるため、一般的に地上では地面などに帯電を逃がすためのアースを取っている。本機は展示機としては例外的にアースが取られていた(写真31)。本機の腐食が少ない理由は、アースが取られていたことにより一部金属が犠牲的に腐食して他の金属の腐食を抑制した可能性が考えられるが、後部胴体では普通鋼に著しい腐食が発生していたこともあり、因果関係は不明である。今回の執筆を機会に、平成13年(2001)に撮影した胴体内部の腐食状況を平成30年(2018)に撮影した写真と比較したところ(写真32、33、34、35)、目視の範囲ではあるが著しい錆の進捗は見られなかった。博物館収蔵庫には温湿度を管理する空調設備はないが、雨風を遮ることのできる環境にあれば腐食の進行をある程度抑えられることが判る。ただし、他の箇所に腐食がなかったわけではない。かかみがはら航空宇宙科学博物館の収蔵庫で分解された状態で保管される機体では、屋外展示の際に確認できなかった内部の腐食を確認できた。翼の結合部などの特に強度を必要とする箇所には超ジュラルミンなどの高強度のアルミニウム合金が鉄製のボルトや結合金具を用いて組写真32矢印で示す普通鋼のストリンガー部に著しい腐食が発生。(2018年2月撮影)写真33写真32と同アングルの写真。(2001年3月撮影)写真34胴体後端部内側。ステンレス鋼の外板にリベットで止められた鉄製のプレートナット(矢印)に錆が発生。(2018年2月撮影)写真35写真34と同アングルの写真。(2001年3月撮影)67