ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

?脱塩処理の前に、エンジンの清掃を済ませておく必要がある。過去の経験から、エンジンへのダメージをできるだけ少なくしつつ時間をかけずに実施するには、現在の乾燥したままの状態で、エンジンに付着している貝などの異物を、竹へらなどを使用して取り除くのがよいと考える。?乾燥状態での清掃終了後、エンジン内部に残る異物を水などを使用して取り除くことになる。ただし、今回のように腐食が激しい場合は、一般に用いられる高圧洗浄などを施すと、不安定な状態で残る金属をもいためる可能性が高い。したがって慎重な手作業が望ましい。?クリヤー塗料(アクリル樹脂)を塗布することにより水や酸素を遮断できると思われているが、実際には水も酸素も遮断することはできない。アクリル樹脂は水となじみやすく、アクリル樹脂の表面で結露が発生すると水が内部にたまり、腐食をおこす要因になる。したがって、クリヤー塗装はするべきではない。?異種金属による接触腐食も心配されるが、腐食が進んでいるため分解して絶縁処置を施すことは難しい。脱塩処理を施した後、ある程度温湿度管理可能な屋内に収蔵するのであれば、接触腐食は一定程度抑制することができる。?作業の最終段階で、赤錆が発生している鉄製部品は、タンニン酸を塗布して化学的に安定した黒錆に転換しておくと良い。残念ながら、アルミニウム合金にはこのような安定化の手法が無い。(近年の鉄製品の修復では、金属の腐食は温湿度の管理により進行を防ぐことが可能なため、黒色に変色するタンニン酸の塗布を行わない事例も多くなっている)?以上が望まれる理想的な保存の手法となるが、実際に実施するとなるとなかなか大変な作業となる。ただし、これらの作業全てができないと保存の意味が無くなるということではない。貴重な品々をより良い状態にして後世に残すという目標を目指しつつ、現実的には出来る範囲で最良の処置を選ぶことになる。必要とあれば、そのためのアドバイスや脱塩処置時の塩素濃度の測定等の協力も可能である。写真21保存処置前のエンジン。エンジンの後方に位置する過給機のインペラ(2004年10月撮影)写真22保存処置を終えたインペラ部。インペラにギヤを取り付けるためのボルトの頭には、まわり止めのために組み込まれたセイフティワイヤー(矢印)(2005年9月)写真23修復を終え、リニューアルオープンした博物館に展示された飛燕(2018年3月、苅田重賀撮影)64第5章航空機における金属部品の腐食とその対応について