ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

たため、今回の脱塩処理は終了した。?付着物除去脱塩処置の後、再度付着物の除去を実施。最初に超音波洗浄機を用いて付着物の除去を実施し、多少の成果を得た。その後、歯科分野などで用いられる超音波スケーラー(バリアス350)を用いて付着物の除去を試み、顕著な効果を得た。?経過観察3ヵ月半程度、錆の発生などの経過を観察し、その間に発生した錆を超音波スケーラーを用いて除去。?シリコンによる皮膜形成皮膜の無い状態であると鉄製部分の錆発生が懸念されたため、ヘキサンで溶いたシリコンへ浸け、乾燥させてシリコンによる皮膜を形成した。シリコンは酸素や水分の供給を阻止することはできないが、撥水性が高く結露した水が表面に付きにくいため、腐食を防ぐ効果がある。また、除去する必要が生じた際に容易に除去できる。ただし非常に穏やかな表面皮膜であるため、常に観察し、変化が見られた時は対処する必要がある。できれば1年か2年に1回再塗布することが望ましい。(2)金属部品の腐食状況プロペラおよびエンジンは、鉄とアルミニウム合金を主体とした金属で構成され、かつ長期間海水に浸かっていたことから、腐食がはげしく、貝殻などが付着していた(写真19、20)。(3)修復および保存処置保存処置の実施にあたり、以下のアドバイスを東京文化財研究所から受けた7。?金属が腐食する要因は主に水、塩素、酸素となるが、今回のエンジンにとって一番の問題は、多量の塩素が金属に含浸していることである。脱塩処理を実施しない限り、いかに湿度管理によって結露を防止しても腐食の進行を抑えることはできない。?脱塩処理の目的は、エンジンに溶け込んだ塩素イオンを溶かし出すことであり、実作業としては大きな水槽にエンジンを漬け込むことになる。また塩素が溶け出すにしたがい、水を交換する必要がある。2.3.陸軍二式戦闘機「鐘馗」の搭載エンジン(1)来歴平成16年(2004)9月、第2次世界大戦の日本陸軍の二式戦闘機「鐘馗」のものと思われるエンジンが東京湾で見つかった(写真18)。エンジンには3本のプロペラの内2本が残り、どちらのプロペラも後方に曲がった状態であった。平成16年(2004)11月、航空自衛隊入間基地に引き取られ、同基地で半年ほどかけて修復が行われた。修復後は、同基地の展示施設で屋内展示されている。写真19鉄製のシリンダー、およびアルミニウム合金製のクランクケースが見える。どちらの部品も腐食が進み、貝などがこびりついていた。(2004年10月撮影)写真18東京湾で見つかった二式戦闘機「鐘馗」のものと思われるエンジン(2004年10月撮影)写真20アルミニウム合金製のシリンダーヘッド部。崩れ落ちたシリンダーヘッド内部の鉄製のバルブスプリング(矢印)(2004年10月撮影)63