ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

た、Chief Conservator Mr. Malcolm Collumによるパワーポイントを用いたスミソニアンの修復基準(Standardsfor Restoration at NASM)4の説明から、見栄えの良さを優先した旧来の修復と、文化財的価値の保存に重点を置く今日の修復との違いを知る事ができ、以下の点が印象的であった5。?核となる原則先ず第一に私たちは文化財の管理人であり、大切なのは歴史資料そのものであり、修復することではない。?私たちの使命収蔵品の真正性を失わないために擁護し、最高レベルの扱いを提供する。?進化し続ける修復内容修復のあるべき姿は変化している。修復で手を加えないことが、より一層“リアル”である。?航空機を評価して修復計画を作成航空機のたどった歴史、状態、真正性のレベルを勘案して、修復の関与の度合いを決める。関与の度合いが一番少ないものとしてはスペースシャトルディスカバリーの例があり、環境のコントロールと観察により劣化を極力遅らせている。反対に関与の度合いが一番高いものとしては、スミソニアンでは実施していないが修復により再び飛行させることである。また修復に際して必要なことは、手を動かし作業を進めるレストアラー(修復担当)だけでなく、キュレーター(展示担当)、コンサバター(保存担当)、アーキビスト(資料担当)を含めた4部門の専門家が共同して仕事を進めることである。真9)は、胴体外板がブリキ製で錆が発生しているが、戦後手つかずのまま保管されてきたため、オリジナリティを極めてよく保っている。したがって、錆の除去を含めて修復を行わないことにしたとのことであった。2.2.海軍零式三座水上偵察機(1)来歴昭和20年(1945)6月、沖縄方面の夜間偵察に出た本機は、帰路燃料不足で南さつま市沖に不時着水し海没、平成4年(1992)4月に引き上げられた際には、プロペラと操縦席の一部を海底から露呈する以外は砂に埋まった状態にあった。引上げ直後から修復がおこなわれ、平成5年(1993)からは南さつま市の万世特攻平和祈念館で屋内展示されている(写真10)。(2)金属部品の腐食状況長期にわたり海没していたために、アルミニウム合金および鉄からなる機体およびエンジンは腐食が進んでいる。(3)修復および保存処置海底から引き上げられた後、水槽に入れられ脱塩処置が行われたが、展示計画もあり十分な脱塩処置を実施でしたがって、腐食しているからといって単に修復を行なわず、錆びの進行を環境のコントロールにより抑えることの方が、今日では重要になってきているとのことであった。収蔵庫に保管される陸軍特殊攻撃機「剣」(写写真9陸軍特殊攻撃機「剣」の操縦席周辺。錆が発生して赤茶色になった胴体外板が良く判る(1994年撮影)写真10海底の砂に埋まった状態を再現した展示。機体は透明塗料が塗布されているため、金属の質感とは異なる光沢がある。(2007年6月撮影)写真11エンジンのアルミニウム合金製のシリンダーヘッド部(矢印)は、展示後も腐食が進んでいることが判る。(2007年6月撮影)61