ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

れており、異種金属による腐食が発生していた(写真6)。異種金属が接触する個所で発生する腐食は接触腐食と呼ばれ、「アルミニウムとその合金の腐食」3によれば、実用上最も問題になる食塩水中での電位の値の低い順に金属および合金を並べた腐食電位列は以下のとおりで、電位の値の低い金属(卑な金属)をこれより高い金属(貴な金属)と接触させると腐食が加速される。そのため、アルミニウムはMg、Zn、Cd、以外の大抵の金属と接触すると腐食をおこすことになる(表2)。写真4腐食が進んでいた方向舵下部(1990~93年、Robert McLean撮影)写真5方向舵のトリムタブ調整用ロッドの取付基部に異種金属による接触腐食が発生(1990~93年、Robert McLean撮影)(3)修復および保存処置腐食の進んだ箇所は、当時の博物館の修復の考え方に従い取り除かれ、新たに製作した部品に置き換えられた。異種金属による腐食が発生していた第5風防の腐食箇所は取り除かれ、新たに製作したレプリカ部品に置き換えられた(写真6)。アルミニウム合金の風防枠に鉄製のネジおよびナットが組み込まれている風防では、接触腐食による腐食を発生させないための予防的な処置も行われた。具体的には、第1風防の風防枠に組み付けられ赤錆が発生していた鉄製のネジは、全て一旦外され、タンニン酸を塗布して科学的に安定した黒錆に転換させた後に、融かした蝋に漬け込みコーティングを行った上で、組み込まれた(写真7、8)。なお、高強度のアルミニウム合金製の主桁は、層状に腐食した個所を取り除き、アルミニウムの溶接棒を用いたTIG溶接により溶接ビードを盛りつけ、欠落箇所を埋めたとのことであった。以上は1990年代にスミソニアンで行われた修復の一部であるが、平成29年(2017)3月に訪問した際に修復の考え方を確認したところ、文化財的価値をより優先するようになっており、オリジナル部品に手を加えることは控えるようになってきているとのことであった。ま写真6アルミニウム合金と鉄による接触腐食。写真は修復後のものであり、矢印の部品は、腐食が進んでいたために切り取られたオリジナルの風防枠。新たに製作された部品が既に組み込まれている(1990~93年、Robert McLean撮影)Mg、Zn、Al-Mg合金、Al-Mn合金、Al-Mg-Zn合金、Al-Zn合金、Cd、純アルミニウム、Al-Si合金、鋼、Al-Cu-Mg合金、Pb、Sn、4-6黄銅、7-3黄銅、Cu、銀ろう、Ni、ステンレス鋼、Ti、Ag、Hg、Cu、Au、Pt表2腐食電位列(左上から順に電位の低い金属)写真7第1風防の内側。風防ガラスを止めるための風防枠に取り付けられた鉄製のプレートナットおよび組み込まれたネジの先端(矢印)が判る。(1999年10月撮影)写真8晴嵐に組み込まれていたオリジナルの鉄製ネジ。ネジ部は旋盤で加工されている。(1990~93年、Robert McLean撮影)60第5章航空機における金属部品の腐食とその対応について