ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

航空機における金属部品の腐食とその対応について長島宏行日本航空協会航空遺産継承基金元事務局員東京文化財研究所元客員研究員1.航空機構造材料の変遷人類初の動力飛行を1903年に行ったライト兄弟の飛行機に代表されるように、初期の機体は、主に木材と布および鉄で作られていた。1915年に全金属製の飛行機が製作されると、徐々に金属機の割合が増え、木材や布は金属材料に置き換えられ、1930年代には金属機が主流となった。今日では、複合材料を用いた機体も実用化されているが、航空機構造材料としては、現在も金属材料、とりわけアルミニウム合金が主要材料となる。『航空機生産工学』1によれば、アルミニウム合金は1960年代までは機体構造重量の約90%を占めていた。金属材料としては、前述のアルミニウム合金や鉄の他にも、チタン合金やマグネシウム合金などが使用されているが、重量や強度、耐食性や価格などの面から、航空機の構造材料としてアルミニウム合金の使用割合は現在でも最も高く、鉄は強度を高めた高張力鋼や腐食性や耐熱性を上げたステンレス鋼も開発され使用されている。複合材料が多用される世代以前に開発されたマッハ2、重量20tonクラスの複座戦闘機の材質別適用比率は、アルミニウム合金70、鉄21、チタン合金7.5、マグネシウム合金0.6、有機材料0.9とされる2。またエンジンは、レシプロエンジンではアルミニウム合金および鉄を主材料としていたが、ジェットエンジンになり燃焼温度が高くなるのに伴い、耐熱性の高い合金が開発され、使用されるようになっている。2.腐食および修復の具体例運航中の航空機は安全が最優先され、安全性を担保するための定期的な点検や整備が実施されている。そのため、腐食の発生や進行は常にチェックされ、必要に応じて適切な処置が施されている。したがって、運用を終えた直後に博物館などに引き取られた航空機の金属部品に著しい腐食は見られないのが一般的である。しかしながら、運用を終えた航空機が直ちに博物館などに引き取られるとは限らず、屋外に長期間放置されていたり、海没した機体や土中に埋まっていたりしていた部品が回収され、展示に供される場合もあり、博物館などに引き取られる航空機の状態は一様ではない。また、博物館などの展示施設に引き取られた航空機は、その大きさから屋内に展示・保管されるとは限らず、屋外に展示されることも多い。腐食の進行は環境に依存するため、博物館移管後の腐食の進行は保管場所により大きく異なる。表1航空機の腐食および修復の具体例No.名称所在地製造年現状と現状に至る経緯修復1海軍特殊攻撃機「晴嵐」28号機スミソニアン航空宇宙博物館スティーブン・Fウドバー・ハジーセンター(米国)1944年~45年(現状)米軍接収→屋外展示・保管→屋内保管→修復→屋内展示スミソニアン航空宇宙博物館(ガーバーファシリティ)が1989年~2000年に実施2海軍零式三座水上偵察機万世特攻平和祈念館(鹿児島県南さつま市)1942年~45年海没→引き揚げ→修復→屋内展示(現状)海上自衛隊鹿屋基地の協力を得て1992年に実施3陸軍二式戦闘機「鐘馗」の搭載エンジン航空自衛隊入間基地(埼玉県狭山市)修武台記念館1940年~44年海没→引き揚げ→修復→屋内展示(現状)航空自衛隊入間基地が2004年~05年に実施4陸軍三式戦闘機「飛燕」二型6117号機岐阜かかみがはら航空宇宙博物館(岐阜県各務原市)1944年米軍接収→屋外展示→屋外屋内展示(この間に複数回修復最終修復は川崎重工が実施)→屋内展示→修復→屋2015年~16年に実施内展示(現状)岐阜かかみがはら航空宇宙博物館5 T-1ジェット練習機試作1号機(岐阜県各務原市)1958年退役→屋外展示→屋内保存(現状)未実施58第5章航空機における金属部品の腐食とその対応について