ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

はじめに東京文化財研究所では、さまざまな有形の文化財の調査研究及びその保存修復に関する調査研究を行っています。その中で、主として明治以降に生まれた多種多様な近代の文化遺産の保護に繋がる基礎的な調査研究について、特に独立行政法人に移行した平成13年(2001)から「近代の文化遺産の保存修復に関する調査研究」と題する研究プロジェクトを立て、研究の深化を図りながらその情報の共有化を図るため、毎年テーマを定めて内外の研究者を招いて研究会を開催してきました。この間、平成18年(2006)には近代の文化遺産の保存修復に関する研究を当研究所として重点的に行うことを内外に意思表示すべく、研究担当の「応用技術研究室」を「近代文化遺産研究室」と改称し、体制の充実を図ってきました。近代の文化遺産の保護に関してこれまで取り上げたテーマは、船舶、航空機、大型構造物、鉄構造物、コンクリート構造物といった構造物の保護はもとより、レコード・フィルム・テープといった音声映像記録メディア、油性塗料、洋紙、近代テキスタイルといった素材を対象とした作品等の保存修復に関する諸課題等を取り上げ、それぞれ『未来に繋ぐ人類の技』と題する報告書をシリーズ本として公刊してきました。文化財としての近代の文化遺産の保護の基本的な考え方は、平成8年(1996)に文化庁がまとめた「近代の文化遺産の保存と活用について(報告)」に一定の方向性が示されていますが、20年を経過した現在、モニュメントとしての遺産保存ばかりでなく現役施設として従来のままの機能を維持または拡張し、あるいは用途転用、再活用を図るなど個々の遺産の特性に応じた幅広い多様な対応が求められるようになってきています。そのため、平成27年度(2015)にはこれまでの研究成果を一旦総括すべく保存と修復の理念をテーマに研究集会を開き、その成果報告書を『近代文化遺産の保存理念と修復理念』と題して刊行しました。しかし、近代の文化遺産については、ようやく研究の途上に着いたばかりといった感は否めません。平成28年度(2016)から当文化財機構の第四次中期計画(平成28年度(2016)~平成32年度(2020)の5ヵ年)が始まるにあたり、近代文化遺産研究室では、従来の成果の上に立って、さらに広く深く研究を推進する目的で、文化財指定が比較的進み保存修理実績も蓄積している煉瓦造建造物に焦点を当てて調査研究を行い、『煉瓦造建造物の保存と修復』として取りまとめました。今年度はそれに引き続き、鉄構造物に着目して、鉄材の劣化、橋梁等の供用施設としての機能確保の問題のほかに、近代の鉄構造物を特徴付けるリベット技術の継承もテーマに加え、国内外の事情に詳しい第一線の方々から論考をいただきました。また、合わせて近代文化遺産研究室が1年かけて行った事例調査の成果を、資料として取りまとめています。ここに関係者に感謝の意を表するとともに、本書が鉄構造物の保存修復の実務にあたって大いに活用されますことを期待しています。今後とも当研究所では多くの事例を積み上げながら、近代の文化遺産の保護のあり方について研究を重ねて行きたいと考えています。関係各位のご支援ご協力をよろしくお願いいたします。平成30年7月3日独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所所長亀井伸雄3