ブックタイトル「鉄構造物の保存と修復」日本語版

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概要

「鉄構造物の保存と修復」日本語版

塗膜を処分する際、有害物質が含まれていると、作業後に処分する必要がある。鉄部の腐食が進行していた場合、腐食部の補修が必要となる。腐食の程度にもよるが、部材としての断面が著しく損なわれている場合には、腐食した鉄部を切断して交換するか、腐食した鉄部に鉄板を添わせて補強することとなる。鉄部の接合は、溶接と熱を使わないボルト締めやステッチング(ColdRepair)による方法がある。このうち、ステッチングは、日本で実施した例は確認できなかったが、鋳鉄を修復する伝統的な手法として、ビクトリア朝時代から使用され、第一次および第二次世界大戦では、応急修理のために広く用いられたという(English Heritage 2012)。3.重要文化財名古屋市東山植物園温室前館は,植物園の中心施設として市土木部建築課の設計により,昭和11年(1936)に建設された。平面は、中央ヤシ室,東翼のシダ室及び西翼の多肉植物室を東西の花卉室で繋ぎ,中央ヤシ室の正面中央に玄関を張り出している。構造は、基礎と腰の部分を鉄筋コンクリート造とし、アングル材を主とした鉄骨で架構をつくり、ガラスを張る。架構の主要部は全て熔接により施工されている。4.末広橋梁は四日市港修築事業で埋め立てられた末広町と千歳町とを結ぶ千載運河に架橋され昭和6年(1931)12月に竣工した。規模は橋長58m、幅員4.1mである。構造形式は鋼鉄製上路式及び下路式プレートガーダー橋、跳開式併用である。現状の橋梁は5連の桁からなり、船舶の通行時には第3連の桁が第2橋脚上に立てられた主塔側に跳ね上がる形式となっている。事業は鉄道省を中心に進められ、可動部の設計は橋梁コンサルタントで可動橋を得意とした山本卯太郎が主宰する山本工務所である。末広橋梁は、四日市港の発展過程を示す遺構で、陸上輸送と運河船運とが拮抗していた時代状況を物語る典型的な土木構造物として歴史的価値が認められ、平成10年(1998)12月重要文化財の指定を受けた。5.余部鉄橋は長さ310m、高さ41m、11基の橋脚、23連の橋桁を持つ鋼製トレッスル橋である。明治42年(1909)に着工し、45年(1912)3月に開通した。6.旧揖斐川橋梁は東海道線建設の一環として明治19年(1886)12月に竣工した。規模は橋長325.1m、トラス桁の長さは200フィート(63.6m)で、5連からなる。事業は内閣鉄道局技師長谷川謹介及び技手の吉田経太郎を中心に進められ、上部構造はイギリス人技術者C.ポナールが設計し、イギリスのパテント・シャフト&アクスルトゥリー社で製作された。旧揖斐川橋梁は日本で最初に完成した幹線鉄道である東海道線において高度な技術を駆使して建設され、大規模鉄道橋梁の一つの規範を示すものとして鉄道技術史上の高い価値が認められ、平成20年(2008)12月重要文化財の指定を受けた。7.スチールサッシュの保存については、課題が多い。沖縄のスチールサッシュを調査した論文では、スチールサッシュは結露により雨がかり以外の場所からも錆びることが指摘されている(荒井領、井上朝雄2011)。国内で生産されたスチールサッシュの耐久性は、完全な下地処理をして、焼き付け塗装とし、5年に1回の塗り替えをすれば70年は持つとされている。ただし、戦後のスチールサッシは、値下げ競争により塗装の質がよくないことが多く、塗り替えも10年毎とされる場合が多いため、実態としては35年が限界との指摘もある(斎藤祐義1957)。同論文に掲載されたスチールサッシュの修繕過程の基準によると、6、7年目には金具が損傷、10年目に枠が傷み、15~20年目に窓が傷むとされている。建具の種類や環境によって、腐食の差があるとしても、戦後に製作されたスチールサッシュの保存は、今後より大きな課題となると思われる。8.旧筑後川橋梁は、筑後川河口より約8.5km上流に位置する昇開式の可動橋である。鹿児島本線と長崎本線を接続する佐賀線建設工事の一環として、筑後川の水運に配慮し、最大800t級の船舶に対応可能な大規模可動橋として建設された。昭和62年(1987)の国鉄佐賀線の廃線後は遊歩道として利用され、平成15年(2003)5月に重要文化財として指定された。参考文献?阿部英彦,稲葉紀昭,中野昭郎,市川篤司(2008)「語り継ぐ鉄橋の技:鋼橋の維持管理と環境保全」?荒井領、井上朝雄(2011)鋼製建具の耐食性に関する研究芸術工学研究:九州大学大学院芸術工学研究院紀要2011 29-51?五十畑弘(2016)供用下にある歴史的土木構造物に関する調査~世界遺産重要文化財の事例を対象に~土木学会論文集D2(土木史)72巻1号20-39?大河裕司(2018)現場レポート愛知県重要文化財名古屋市東山植物園温室前館「鉄骨補修について」文建協通信2018.04 62-68?紅林章央(2017)国重要文化財の永代橋、清洲橋の長寿命化建設機械施工2017.8 39-44?公益財団法人鉄道総合技術研究所(2015)鋼構造物補修・補強・改造の手引き?公益財団法人文化財建造物保存技術協会編(2014)重要文化財(建造物)旧三河島汚水処分場喞筒場施設保存修理工事報告書?小坂潔彦、坂井田実(2014)重要文化財旧揖斐川橋梁の現状と課題(修・復・活用計画経過報告)土木史研究講演集Vol.34?斎藤祐義(1957)スチールサッシの耐久性について建築と社会1957.04 73-76?土木学会(2006)歴史的鋼橋の補修・補強マニュアル鋼構造シリーズ14?難波和彦(2016)メタル建築史:もうひとつの近代建築史?西村昭、伊藤幸三郎、大河覚、石田英司(1985)国指定重要文化財神子畑鋳鉄橋の保存修理工事橋梁と基礎1985.01 34-40?福田貴裕、五十畑弘(2007)重要文化財に指定された橋梁の保全方法に関する研究―永代橋、清洲橋、勝鬨橋を対象として―日本大学生産工学部学術講演会土木部会講演概要?本間信之、漆谷昌祥、山室正人、関川利雄、中川治士、本山潤一郎(2016)永代橋の機能分離構造を用いた耐震補強対策橋梁と基礎2016.0515- 22? English Heritage(2012)Practical Building Conservation: Metals? NHK NEWS WEB(2017)笹子事故5年インフラは安全になったのか?https://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2017_1204.html(2017年12月4日更新)44第3章鋼構造物の文化財修理の現状と今後のあり方の考察